「ホットジュピター」は、30年近くに渡る太陽系外惑星の観測史上、最も古くから知られているタイプの1つであり、極めて変わった環境を持っていることでも知られています。
ホットジュピターも本質的には木星や土星と同じ巨大ガス惑星ですが、恒星の非常に近くを公転しているため、その公転周期はわずか数日未満と短く、表面温度は1000℃以上に加熱されています。この温度上昇にともなってホットジュピターの大気は膨張するため、スペクトルデータに基づいた大気成分の観測がしやすい惑星でもあります。
ホットジュピターの大気を構成する化学種は非常に変わっており、大気中に岩石や金属の蒸気が見つかることも珍しくありません。例えばWASP-76bでは、恒星に照らされている側 (昼側) の大気では鉄の蒸気が検出されています。恒星に照らされていない側 (夜側) では検出されていないことから、大気中を移動した鉄の蒸気は温度低下にともなって凝集するため、夜側の空では鉄の雨が降り注いでいるものと信じられています。
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しかし、ポルト大学のTomás Azevedo Silva氏らの研究チームは、これよりさらに異常な発見を報告しました。Silva氏らは、チリのパラナル天文台にある「超大型望遠鏡 (VLT) 」に設置された観測装置「ESPRESSO」で、「WASP-76b」と「WASP-121b」の観測を試みました。この2つの惑星は大気成分の観測に適している太陽系外惑星として、これまで何度も観測が試みられています。しかし、今回はさらに詳細な化学種の検出を試みるため、ホットジュピター用に改善された手法でスペクトルデータの解析が行われました。
その結果は予想外なものでした。研究チームはホットジュピターの大気に含まれる新たな化学種として「バリウムイオン」「コバルト」「ストロンチウムイオン」 (および暫定的な検出としてチタンイオン) を発見しました。
特に、バリウムの存在は驚くべきものでした。原子番号56番のバリウムは、これまでに太陽系外惑星の大気中で見つかったものとしては最も重い元素です。バリウム原子1個の平均質量は鉄原子の2.5倍にもなりますが、これはバリウムが大気中で急速に落下することを意味しており、本来ならば検出されるはずのない成分です。また、宇宙には鉄の数十万分の1しか存在しないというバリウムの希少性も不利に働きます。
なぜホットジュピターの大気にバリウムのような重い元素が存在するのか、そのメカニズムに関しては全くの謎です。この謎を解決するには、スペクトルデータの再検討や、ホットジュピターの内部で起こる循環の再検討など、様々な方向からの研究が必要でしょう。
興味深い点として、いずれもアルカリ土類金属に属する元素であるバリウム、ストロンチウム、カルシウムがイオン化していることがあげられます。このような重い元素の電離が惑星の大気上層部で観測されるのは大気化学的に興味深いことであり、何か知られていない大気循環などが起こっている可能性があります。
なお、これらの発見とは別に、様々な化学種のスペクトルデータに特異なズレがあることも発見されました。特に、WASP-121bのカルシウムイオンは顕著な青方偏移を示しています。このズレは、大気の流出に関する1つの証拠となる可能性があります。
Source
T. Azevedo Silva, et.al. “Detection of barium in the atmospheres of the ultra-hot gas giants WASP-76b and WASP-121b”. (Astronomy & Astrophysics) Tomás Azevedo Silva, et.al. “Heaviest element yet detected in an exoplanet atmosphere”. (European Southern Observatory)文/彩恵りり