こちらは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」が撮影した月です。ルーシーに搭載されているカメラの1つ「長距離偵察イメージャー(L'LORRI)」で撮影された5枚の画像が合成されています。画像に向かって中央の左上には、光条をともなうコペルニクス・クレーター(直径93km)が写っています。
明暗境界線付近が捉えられているため、画像では月面に広がる地形の陰影が強調されています。向かって上側に広がる雨の海の右端ではアペニン山脈やコーカサス山脈の山々が低い太陽からの日差しを受けて輝いているのが見えますし、向かって下側の月面を覆う無数のクレーターでは外輪山や中央丘の様子がよくわかります。
ルーシーは太陽を公転する地球の重力を利用して軌道を変更するスイングバイを行うため、2022年10月16日に高度350kmを通過していきました。冒頭の画像の作成には主に、地球最接近の7時間半~8時間後に撮影された画像が使われています(最上部に使われているのはそれよりも前に撮影された画像)。NASAによると、撮影時のルーシーは月から平均約23万km離れていました。
いっぽう、こちらは地球スイングバイに先立つ10月15日に、ルーシーに搭載されているカメラの1つ「末端追尾カメラ(T2CAM)」の計器校正の一環として撮影された地球です。同一のカメラ2台で構成されているT2CAMは、フライバイ時に探査対象である小惑星を追尾するために用いられます。
NASAによると、撮影時のルーシーは地球から62万km(地球から月までの距離の約1.6倍)離れていました。インド洋を中心に、右下にはオーストラリア大陸が、左上にはユーラシア大陸の一部が写っています。左端にはアラビア半島やアフリカ大陸の一部も見えていますが、探査機の名前の由来であるアウストラロピテクス・アファレンシスの「ルーシー」が発掘されたエチオピアのハダール付近も写っているようです。
いっぽう、こちらは10月13日にT2CAMで撮影された地球と月です。撮影時のルーシーは地球から140万km(地球から月までの距離の約3.7倍)離れていました。画像の右側には地球が、左側には暗く小さな月が写っています。
日本時間2021年10月16日に打ち上げられたルーシーは、木星のトロヤ群小惑星8つ(2つの衛星を含む)と小惑星帯の小惑星1つ、合計9つの小惑星の探査を目的としています。複数の小惑星を訪問することから、ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間が予定されています。
木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にある「L4点」付近(公転する木星の前方)と「L5点」付近(同・後方)に分かれて小惑星が分布しています。
木星のトロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成と進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、前述の通り、ミッションと探査機の名前は有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)にちなんで名付けられました。
ルーシーの軌道を変更するための地球スイングバイは12年に渡るミッション中に合計3回計画されており、次回は約2年後の2024年12月12日に実施される予定です。第2回スイングバイでルーシーは小惑星帯を横切って木星の前方トロヤ群へ向かう軌道に乗り、2025年4月には最初の探査対象である小惑星帯の小惑星「ドナルドヨハンソン」に接近します。
その後のルーシーは木星に先行するL4点のトロヤ群に向かい、2027年8月に「エウリュバテス」とその衛星「ケータ」、同9月に「ポリメレ」とその衛星、2028年4月に「レウコス」、同11月に「オラス」のフライバイ探査を行います。L4点の木星トロヤ群で探査を終えたルーシーは再び地球へと戻り、2030年12月に第3回地球スイングバイを実施して軌道を変更。今度は木星に後続するL5点のトロヤ群に向かって2033年3月に二重小惑星「パトロクルス」「メノエティウス」のフライバイ探査を行い、ミッションを終える予定です。
関連:NASA小惑星探査機「ルーシー」第1回地球スイングバイを実施
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Image Credit: NASA/Goddard/SwRI/JHU-APL/Tod R. Lauer (NOIRLab), NASA/Goddard/SwRI NASA - NASA’s Lucy Spacecraft Views the Moon NASA - NASA's Lucy Spacecraft Captures Images of Earth, Moon Ahead of Gravity Assist文/松村武宏