アメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)は10月26日、同研究所が運用する「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得された、初期宇宙の銀河とみられる天体「MACS0647-JD」の画像を公開しました。
冒頭に掲載したものが今回公開された画像です。左側の大きな画像には、「きりん座」の方向約56億光年先にある銀河団「MACS J0647+7015」が写っています。MACS0647-JDの像はこの銀河団がもたらす「重力レンズ」効果(※1)によって3つに分裂しており、それぞれ「JD 1」「JD 2」「JD 3」として識別されています。3つの像の位置は白い四角で示されていて、右側には各像の拡大画像が並べられています。
※1…天体の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体から発せられた光の進行方向が変化し、地球では像が歪んだり拡大して見えたりする現象のこと。
MACS0647-JDは「ハッブル」宇宙望遠鏡の観測によって見つかった天体で、今から10年前の2012年11月に発見が報告されました。この天体が存在していたのはビッグバンから約4億3000万年後、今から約133億7000万年前だったと考えられています(今回の研究では赤方偏移z=10.6±0.3を導出)。
今回の観測を行った研究チームに参加している全米天文学大学連合(AURA)/STScIのDan Coeさんによると、MACS0647-JDの像はJD1が8倍、JD2が5倍、JD3が2倍に拡大されているといいます。Coeさんはハッブル宇宙望遠鏡によるMACS0647-JDの発見を報告した研究チームを率いた人物です。
なお、ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線を主に利用して観測を行うため、公開されている画像の色は人の目で見た場合とは異なります。MACS0647-JDの場合、観測に使用された6種類のフィルターに応じて青・緑・赤で着色されています(※2)。
※2…F115WとF150W(波長1.15μmと1.5μm)は青、F200WとF277W(波長2.0μmと2.77μm)は緑、F365WとF444W(波長3.65μmと4.44μm)は赤で着色。
各像の拡大画像を見ると、MACS0647-JDは2つの塊に分かれていることがわかります。大きな塊は幅約460光年、小さな塊は幅約130光年で、約1300光年離れていると推定されています。10年前に公開されたハッブル宇宙望遠鏡の画像では2つに分かれていることは識別できず、幅約600光年と推定されていました。
研究チームを率いるジョンズ・ホプキンス大学の大学院生Tiger Yu-Yang Hsiaoさんによると、塊には大きいほうが青くて小さいほうがより赤いという、色(赤外線の波長)の違いが認められます。青(短い波長)は星形成から時間が経っておらず、塵がほとんど含まれないことを示しているいっぽうで、赤(長い波長)は形成されてから時間が経っていて、塵が多く含まれることを示しているといいます。それぞれの塊に存在する星の質量も異なる可能性があるようです。
このような構造を持つことがわかったMACS0647-JDについて、Tiger Hsiaoさんは、初期宇宙における銀河合体(複数の銀河が合体して1つの銀河になるプロセス)を目撃している可能性があると指摘しています。また、研究チームはMACS0647-JDから1万光年近く離れたところに位置する、伴銀河の可能性がある別の天体も報告しています。研究チームは2023年1月にもウェッブ宇宙望遠鏡による分光観測(電磁波の波長ごとの強さを知るための観測)を計画しており、MACS0647-JDの物理特性をより詳しく調べる予定とのことです。
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Image Credit: Science: NASA, ESA, CSA, Dan Coe (STScI), Rebecca Larson (UT), Yu-Yang Hsiao (JHU); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI) STScI - Webb Offers Never-Before-Seen Details of Early Universe NASA - Webb Offers Never-Before-Seen Details of Early Universe Tiger Hsiao et al. - JWST reveals a possible z∼11 galaxy merger in triply-lensed MACS0647−JD (arXiv)文/松村武宏