カーネギー大学の天文学者Scott S. Sheppardさんを筆頭とする研究チームは、地球よりも太陽に接近する3つの小惑星「2021 LJ4」「2021 PH27」「2022 AP7」の発見に関する研究成果を発表しました。その1つである2022 AP7は推定直径1km以上で、地球の公転軌道に約700万kmまで接近するといいます。
2022 AP7は、チリのセロ・トロロ汎米天文台にあるブランコ4m望遠鏡の観測装置「ダークエネルギーカメラ(DECam)」を使った同チームの観測によって、2022年1月13日に発見されました。アポロ群に分類されている2022 AP7の公転軌道は短周期彗星のような楕円形で、太陽に最も近づく時は地球の公転軌道の内側まで入り込みますが、最も遠ざかる時は木星の公転軌道付近まで移動します(近日点距離:約0.83天文単位、遠日点距離:約5.02天文単位、公転周期:約5年)。
地球に接近する軌道を公転している「地球接近天体」(NEO:Near Earth Object、地球接近小惑星)のうち、特にリスクが高いものは「潜在的に危険な小惑星」(PHA:Potentially Hazardous Asteroid)に分類されています(※1)。
2022 AP7は地球の公転軌道との最小交差距離が約0.047天文単位、絶対等級が17.1であることからPHAの1つに数えられますが、その直径は約1.5kmと推定されており、2014年以降に見つかったPHAとしては最大の可能性があるといいます(※2)。
※1…地球の公転軌道との最小交差距離(公転軌道が最も接近している部分の最小距離)が0.05天文単位以下・絶対等級が22.0以上の小惑星はPHAに分類される。
※2…絶対等級とアルベドを用いて算出された2022 AP7の推定直径は、アルベドを0.25%と仮定した場合は1.0km、0.05%と仮定した場合は2.3km。
研究チームを率いるSheppardさんは「同程度のサイズがある未発見の地球接近小惑星は、おそらくあと数個でしょう。そのほとんどが、地球や金星の公転軌道よりも内側に留まる軌道を公転している可能性が高いです」とコメントしています。
なお、同チームがDECamを使って発見した別の小惑星2021 PH27も、直径が1kmを上回る可能性があります。2021 PH27は常に地球の公転軌道よりも内側にあるアティラ群に分類されており、既知の小惑星としては太陽に最も接近する軌道を公転しています。
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小惑星や彗星のように小さな天体の公転軌道は、惑星の重力や「ヤルコフスキー効果(※3)」などによって、比較的短い期間で変化することがあります。NEOやPHAに分類される小惑星の場合、軌道が変化することで将来地球に衝突する可能性もあることから、正確な軌道を把握して衝突リスクを評価するための追跡観測が続けられています。
ただ、アティラ群やアポロ群のように地球よりも太陽に接近する小惑星は、地球よりも太陽から遠い小惑星と比べて観測が難しいという事情があります。太陽の近くにある天体は水星や金星のように夜間のほとんどは地平線の下に隠れているため、観測できる時間帯は日の出前や日の入り後の短い時間に限られます。また、小惑星は地平線近くの低い空に見えるため、地球の大気によるゆらぎの影響がより強く現れてしまいます。
セロ・トロロ汎米天文台を運営する米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外天文学研究所(NOIRLab)は、地球の公転軌道の内側に潜む捜索や追跡が困難な小惑星の観測を行うSheppardさんたちの研究について、惑星防衛(プラネタリーディフェンス※4)だけでなく、太陽系における小天体の分布を理解する上でも重要なステップだと述べています。
※3…太陽に温められた天体の表面から放射される熱の強さが天体の場所によって異なることで、天体の軌道が変化する効果。
※4…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みのこと。
Source
Image Credit: DOE/FNAL/DECam/CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/J. da Silva/Spaceengine, NASA/JPL NOIRLab - Largest Potentially Hazardous Asteroid Detected in Eight Years Sheppard et al. - A Deep and Wide Twilight Survey for Asteroids Interior to Earth and Venus NASA/JPL - Small-Body Database Lookup (2022 AP7)文/松村武宏