夜空に輝く美しい天の川は、天文学にとっては時に邪魔な存在でもあります。
天の川は、太陽系が属している天の川銀河 (銀河系) を構成する円盤状の構造「銀河面」を、内側から横向きに観ているものです。ここには天の川銀河に属する無数の星々の他に、ガスや塵などが大量に存在するため、遠くにある星の光が遮断されてしまいます。また、ある星が地球の近くにある暗い星なのか、それとも地球から遠くにある明るい星なのか、という単純なことでさえも計測が難しくなることもあります。このような天球上の場所を「銀河面吸収帯 (ZoA, Zone of Avoidance)」と呼びます。
ただし、銀河面で見通しが効かないのは可視光線で観測を行う場合の話であり、他の波長では状況が違うこともあります。近赤外線や電波による天体観測が行われるようになってからは、銀河面吸収帯の多くの領域が見通せるようになりました。
それでもなお、銀河の中心部に存在する「銀河バルジ」は攻略が困難でした。物質が高密度で集中しているこの領域は、近赤外線でも観測が難しいことで知られています。このため、天球全体のうち約10%は、天の川銀河の背後を見通せない未知の領域として残されていました。
サンファン国立大学、リオグランデ・ド・スル大学、アンドレス・ベーリョ国立大学などの国際研究チームは、銀河バルジに隠された未知の領域を観測する「VVVサーベイ」の成果を公表しました。観測領域がとても広いため、今回の観測では空間的な分布を考慮して5つの銀河候補天体に的を絞り、その周辺部に何があるのかが調査されました。
その結果、先述の5つの銀河候補天体を含む、58個の銀河候補天体が見つかりました。平均的な赤方偏移の値から、これらの銀河のいくつかは約30億光年先にあると推定されています。これは過去の観測結果や、銀河の分布に関する理論的な推定と一致します。
また、 “宇宙はどこを切り取っても同じような構造が続いている” とする「宇宙原理」の観点からも、理にかなっている結果です。従来は観測が困難だった領域にも何らかの大規模構造があったことは予想通りだと言えますが、「予想通り存在すること」を発見したことこそが今回の成果における重要なポイントであるとも言えます。
ただし、 今回発見された銀河候補天体のいくつかには、観測値の不確かさが大きいという問題もあります。また研究チームは、今回発見された銀河候補天体が重力的に結合した銀河団を形成していると推定していますが、今のところそれを決定する強い証拠はありません。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡など、他の赤外線望遠鏡による観測で、これら銀河候補天体の詳細が明らかになるかもしれません。
Source
Daniela Galdeano, et.al. “Unveiling a new structure behind the Milky Way”. (arXiv) Bob Yirka. “Huge extragalactic structure found hiding behind the Milky Way” (Phys.org) Brandon Specktor. “Scientists discover massive 'extragalactic structure' behind the Milky Way” (Live Science)文/彩恵りり