東北大学大学院理学研究科の平居悠研究員を筆頭とする研究チームは、天の川銀河で数多く見つかっている貴金属(金やプラチナといった鉄よりも重い元素)に富む星について、後に天の川銀河を形成することになる小さな銀河で今から100億年以上前に誕生していたとする研究成果を発表しました。
初期の宇宙には水素、ヘリウム、わずかなリチウムしか存在しておらず、それよりも重い鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で、さらに重い元素は超新星爆発などの激しい現象で生成・放出され、星の世代交代が進むにつれて徐々に増えていったと考えられています。
天の川銀河の星のなかには、鉄に対する貴金属の割合が太陽の5倍以上になるものが数多く見つかっています。貴金属に富むこれらの星がいつ、どのように形成されたのかを理解するために、研究チームは国立天文台の天文学専用スーパーコンピューター「アテルイII」を用いて、138億年に渡る天の川銀河の形成シミュレーションを実施。その結果、貴金属に富む星の9割以上が宇宙誕生から40億年以内(今から98億年以上前)に、形成途中の小さな銀河で形成された可能性が示されたといいます。
【▲ 今回の研究におけるテストシミュレーション時の映像(本番の100分の1の解像度で計算を行ったもの)】
黄色い輝きは星、淡い雲のように描かれているものはガスを表している。
(Credit: 斎藤貴之/武田隆顕)
今回のシミュレーションでは、中性子星どうしが合体することで発生する爆発現象「キロノバ」にともなって貴金属などが作られる「r過程(rプロセス)」と呼ばれる元素合成のプロセスが考慮されています。小さな銀河では星の材料となる水素ガスの量が少なく、少ない回数の中性子星合体でも銀河全体の貴金属の割合が高くなることから、その後に誕生するのは貴金属に富む星になると考えられています。
また、貴金属の一つであるユウロピウム(Eu)の量を比較すると、シミュレーションと実際の観測データがどちらも似たような分布をしていることが示されたといいます。このことから研究チームは、天の川銀河で見つかった貴金属に富む星の多くは形成されてから100億年以上が経っており、宇宙初期における天の川銀河の形成史を今に伝える星々だと指摘しています。
研究チームは今後、理化学研究所のスーパーコンピューター「富岳」によるシミュレーションや国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」などによる観測をもとに、宇宙誕生から138億年後の現在に至る天の川銀河形成史の解明に挑むとのことです。
関連:キロノバ「GW170817」でランタンとセリウムを検出、初の中性子星同士の合体でのランタノイド検出
Source
東北大学 - 貴金属に富んだ星々は100億歳 世界最高解像度天の川銀河シミュレーションに成功 国立天文台 - 貴金属に富んだ星々は100億歳—世界最高解像度の天の川銀河シミュレーションに成功— Yutaka Hirai et al. - Origin of highly r-process-enhanced stars in a cosmological zoom-in simulation of a Milky Way-like galaxy文/松村武宏