人類が太陽系外惑星やその衛星を探すことに夢中になる理由の一つは、そこに生命が存在するかどうかを知りたいからだと言えるでしょう。系外惑星や系外衛星で生命を探す時に問題となるのが「ハビタブルゾーン」(または「ゴルディロックスゾーン」)です。ハビタブルゾーンはいわゆる地球型生命が存在できる恒星周囲の空間のことで、一般的に生命居住可能領域と訳されます。
ハビタブルゾーンを念頭におく私たちは、海として表面に液体の水をたたえ、十分な陸地を備えた地球のような惑星を想像して、「Earth 2.0」とも表現される地球に似た惑星を探したくなります。しかし、このような条件は地球の軌道離心率に依存しているとも言えます。軌道離心率(Orbital eccentricity)とは、ある天体の軌道の形が真円(完全な円)からどれだけ離れているかを示す値(パラメータ)のこと。軌道離心率をeとすると、e = 0なら真円、0 < e < 1なら楕円、e = 1なら放物線、e > 1なら双曲線となります。
地球の軌道離心率は約 0.02 、太陽系の惑星で軌道離心率が最も大きい水星の値は約 0.2 となっています。太陽系の惑星は水星を除き、ほぼ真円の軌道を描いていると言えるでしょう。
しかしながら、系外惑星には軌道離心率が非常に大きな(高度に偏心した)ものも多数見つかっています。このような軌道を公転する惑星は、「eccentric」の2つの意味「偏心した」と「風変わり」をかけて「エキセントリックプラネット(eccentric planet)」と呼ばれています。エキセントリックプラネットの1つである系外惑星「HD 96167b」の軌道を太陽系の惑星の軌道と比較してみると、その「偏心した」「風変わりな」特徴がよくわかります。
HD 96167b のように高度に偏心した軌道を描くエキセントリックプラネットの場合、ハビタブルゾーンにとどまって公転するのではなく、その内側や外側へ出入りする可能性があります。このようなエキセントリックプラネットに生命が潜んでいる可能性はあるのでしょうか?
「可能性はあると思います」と、北アリゾナ大学天文学・惑星科学部の助教であるタイラー・ロビンソン(Tyler Robinson)博士は語っています。
ロビンソン博士によると、エキセントリックプラネットに生命が存在する可能性は、偏心の程度、惑星の自転周期と昼夜のサイクル、恒星(親星)のエネルギーによる加熱、恒星から離れることで生じる冷却現象などに左右されるだろうとのこと。大気と海洋は熱慣性により加熱や冷却に対してある程度の緩衝材となっていますが、惑星が恒星からあまりにも多くのエネルギーを受け取ったり、反対に受け取れなくなったりすると、これらの保護が壊れ始める可能性があるのです。
カリフォルニア大学リバーサイド校の惑星天体物理学教授であるスティーブン・ケイン(Stephen Kane)博士も「非常に偏心した軌道にある惑星の気候を探ることは、その大気の最上部で受け取るエネルギーの劇的な変化に対する惑星気候の堅牢性を理解することに他なりません」と語っています。「もしも、それらの惑星が少なくとも軌道の大部分を通して居住可能な状態を維持することができれば、生命が存在し得る場所は大きく広がる可能性があります」
これまでに発見された5000個以上の系外惑星は、私たちの太陽系と同じような惑星系がほとんど存在しないことをすでに示していますが、地球外生命探査が今後進展すれば、地球外生命を見つけることができるかもしれない場所も増えていくことが期待されます。
ロビンソン博士によれば、エキセントリックプラネットは生命の起源におけるサイクルの重要性について教えてくれる可能性を秘めています。「日々の加熱と冷却、浜辺に打ち寄せる波、潮の満ち引きなど、私たちの地球における生命の起源にはこうしたサイクルが重要だったと言う人もいます。であれば、もっと極端な季節のサイクルは、ひょっとしたら生命の誕生を助けるかもしれません。そうはならない可能性もありますが」
エキセントリックプラネットにおける生命存在可能性の研究は、さまざまな条件を考慮しながら進めていく必要性があるようです。
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Image Credit: NASA/JPL-Caltech, 天文学辞典(日本天文学会) UNIVERSE TODAY - Searching for Life on Highly Eccentric Exoplanets 天文学辞典 - エキセントリックプラネット文/吉田哲郎