ソマリアのエル・アリ近くに位置する石灰岩の谷から見つかった「エル・アリ隕石」は、15.2トンもある巨大な鉄隕石です。遊牧民の伝承によると、この “大岩” の存在はすでに5~7世紀頃には知られており、刃物の研ぎ石として使用されていましたが、実際に鉄隕石であると確認されたのは2020年9月になってからでした。
アルバータ大学のクリス・ハード氏らは、エル・アリ隕石から切り出されたサンプルの1つ、およそ70gの断片を分析しました。その結果、これまで知られていなかった組成の物質がいくつか見つかり、そのうちの2種類が新種の鉱物として発表されました。
発見された鉱物は「エルアリ石 (Elaliite・Fe9(PO4)O8)」および「エルキンズタントン石 (Elkinstantonite・Fe4(PO4)2O)」と名付けられました。エルアリ石は隕石の名前に、エルキンズタントン石は惑星科学者のリンディ・エルキンズ・タントン氏にちなんでいます。タントン氏はアメリカ航空宇宙局 (NASA) の小惑星探査ミッション「サイキ (Psyche) 」の主任研究員であり、同ミッションの探査対象である小惑星「プシケ (Psyche) 」は、エル・アリ隕石と同じく金属の塊であると推定されています (※) 。
※…「Psyche」の読みは、ラテン語読みでは「プシケ」、英語読みでは「サイキ」となる。小惑星の名前は日本ではラテン語読みで書かれることが多い一方、サイキは英語圏のNASAのミッションであるため、同じスペルでもカタカナ表記が異なる。なお、これらの由来はギリシャ神話の登場人物「Ψυχή」に因んでおり、古代ギリシャ語の発音に忠実な表記は「プシューケー」となる。
地球に落下する前の隕石は地球表面の岩石とは異なる環境に晒されていたため、新種の鉱物の発見が期待されます。しかし、そのサイズはマイクロメートルスケールという非常に小さなものです。新種の鉱物であると主張するには、その物質の組成と結晶構造を詳細に示す必要がありますが、サンプルのサイズが小さければ小さいほど、詳細な分析は困難になります。潜在的に新種の可能性がある鉱物を見つけても、証明に何年もかかることは珍しくありません。
ただし、エル・アリ隕石の2種類の鉱物は稀な幸運に恵まれていました。2種類はいずれも1980年代に同様の組成と結晶構造を持つ人工物が合成されており、比較するためのデータが既に揃っていたためです。このため、エルアリ石とエルキンズタントン石は、分析からたった1日で新種であると特定できました。
ハード氏らは2022年国際宇宙探査シンポジウムにてこの成果を発表しましたが、まだ論文にはまとめられていません。論文では、潜在的に新種の可能性がある3種類目の鉱物についても報告される予定です。
また、発見された3種類の鉱物が、エル・アリ隕石の生成とどのように関わっているのかも分析される予定です。鉄隕石では鉄とリンの組み合わせの鉱物が良く見つかりますが、今回見つかった鉱物のように酸素が含まれていたり、リン酸塩 (PO4) の組み合わせよりもさらに余剰の酸素が含まれていたりするのは珍しいことです。
なお、エル・アリ隕石をさらに詳しく研究できるかどうかは状況次第です。隕石はソマリアの首都モガディシュに運ばれてソマリア政府に押収された後、行方不明になったからです。その後、エル・アリ隕石は販売目的で切断され、中国に運ばれたという情報があるものの、詳細は未だに不明です。ハード氏らは、もしも新しいサンプルを入手できる機会があれば、更なる研究を進める方針です。
Source
Adrianna MacPherson. “New minerals discovered in massive meteorite may reveal clues to asteroid formation”. (University of Alberta) “El Ali”. (Meteoritical Bulletin) Michelle Starr. “Two Minerals Never Seen Before in Nature Discovered In an Asteroid That Fell to Earth” (science alert)文/彩恵りり