これまでに5000個以上が見つかっている「太陽系外惑星」のなかには、太陽系ではみられないタイプの惑星も存在します。その極端な例の1つが、公転周期が1日未満しかない「超短周期惑星」です。超短周期惑星は恒星からの距離が数百万kmしかなく、表面温度は数千度にも達します。
惑星はこれほど高温の領域では形成できないと考えられていることから、超短周期惑星はもっと遠い軌道で形成された後に、何らかの理由で恒星へと近づくような軌道の変化があったと推定されます。しかし、そのメカニズムはよくわかっておらず、そもそもこの推定が正しいのかどうかもわかっていません。
そのような惑星の1つとして知られているのが、2004年に発見された「かに座55番星e」です。かに座55番星eは地球の1.9倍の直径と8倍の質量を持つ岩石主体の惑星であると推定されていますが、表面温度は2500℃にも達するため、マグマに覆われていると推定されています。
かに座55番星eは主星である恒星の「かに座55番星A」を18時間未満で公転するだけでなく、かに座55番星Aを公転する惑星の中で唯一、恒星面を横切ります。つまり、地球にいる私たちから見れば、18時間周期でかに座55番星Aの手前をかに座55番星eが横切り、かに座55番星Aの見た目の明るさがほんの少しだけ暗くなります。
かに座55番星Aを公転する他の惑星が恒星面を横切らないことから、かに座55番星eとその他の惑星では軌道傾斜角が異なることが示唆されます。では、かに座55番星e自身の軌道傾斜角はどの程度の値なのでしょうか。より正確には、かに座55番星Aの赤道に対してどの程度傾斜しているのでしょうか。
アメリカのアリゾナ州にあるローウェル天文台は、ケーブルテレビネットワーク「ディスカバリーチャンネル」にちなんだ「ローウェルディスカバリー望遠鏡」を運用していますが、この望遠鏡には非常に精密な観測を行える分光計「EXPRES」が設置されています。今回、このEXPRESを使用して、かに座55番星eの軌道傾斜角を精密に測定する試みが行われました。
恒星は自転をしているので、片側の半球は私たちに向かって近づく一方、反対側の半球は私たちから遠ざかって見えます。このため、恒星を発した光はドップラー効果によって、地球に近づく半球からの光はわずかに短波長に、もう半球からの光はわずかに長波長となります。かに座55番星eがかに座55番星Aの恒星面を横切る時は、隠している側の半球からの波長成分が減ることになるため、横切り始めてから終わるまでの間にかに座55番星Aの波長成分には変化がみられるはずです。ただしその変化は極めてわずかであるため、EXPRESほどの分光計が登場する以前は不可能なことでした。
測定の結果、かに座55番星Aの赤道に対するかに座55番星eの軌道傾斜角は約10度 (-10度~27度) であることがわかりました。このことから、かに座55番星eは現在よりもずっと遠くの軌道で形成された後、時間をかけて軌道が小さくなり、現在の軌道へと移動したことが示唆されます。形成時点では多少のずれがあっても、恒星に近づくにつれて重力が強くなるため、軌道面と赤道がほぼ揃うことが説明できます。
他の超短周期惑星はかに座55番星eほど観測条件が良くないこともあり、同様の観測データを得ることが可能かは不明です。しかし、今回の観測結果もそれ以前には不可能だったものが、今回観測可能だと実証することができたように、今後は他の太陽系外惑星のデータも揃うかもしれません。それらを統合すれば、超短周期惑星の形成過程をめぐる議論に決着がつくかもしれません。
Source
Lily L. Zhao, et.al. - “Measured spin–orbit alignment of ultra-short-period super-Earth 55 Cancri e”. (Nature Astronomy) Jim Shelton. - “Yale device delivers data from ‘Hell Planet,’ leads astronomers to its orbit”. (Yale University)文/彩恵りり