ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)のShreyas Vissapragadaさんを筆頭とする研究チームは、「はくちょう座」の方向約2571光年先で見つかった太陽系外惑星「ケプラー(Kepler)1658b」に関する新たな研究成果を発表しました。研究チームによると、ケプラー1658bは公転軌道が少しずつ減衰して主星に近付き続けていて、最終的に破壊される運命にあるようです。
■準巨星を公転するホットジュピターの軌道が減衰している証拠を発見ケプラー1658bはアメリカ航空宇宙局(NASA)の「ケプラー」宇宙望遠鏡(2009年打ち上げ・2018年運用終了)による観測で最初に検出され、2019年に系外惑星であることが確認されました。木星と比べて直径はほぼ同じですが、質量は約5.9倍。公転周期は約3.8日で、ホットジュピター(公転周期が約10日以下の巨大ガス惑星)に分類されています。
主星の「ケプラー1658」は太陽と比べて質量は約1.5倍・直径は約2.9倍の準巨星(主系列星から赤色巨星に進化しつつある恒星)です。地球から見ると、ケプラー1658bは主星の手前を横切る「トランジット」を定期的に起こします。トランジットの間は惑星が主星の一部を隠すため、主星の明るさがごくわずかですが暗くなります。この明るさの変化を詳しく調べることで、系外惑星の存在だけでなく、その公転周期や直径などの情報を得ることができます。
【▲ 惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画】
(Credit: ESO/L. Calçada)
研究チームが13年分の観測データをもとにケプラー1658の明るさの変化を分析したところ、毎年約131ミリ秒(※1ミリ秒=1000分の1秒)というごくわずかな変化ではあるものの、ケプラー1658bの公転周期が短くなり続けていることがわかりました。分析にはケプラー宇宙望遠鏡だけでなく、パロマー天文台のヘール望遠鏡や、NASAの系外惑星探査衛星「TESS」(2018年打ち上げ・運用中)の観測データが用いられています。
公転周期が短くなるということは、公転軌道が小さくなって、主星により近付くことを意味します。ケプラー1658bは主星から約0.054天文単位(太陽から水星までの平均距離の7分の1程度)しか離れていないことから、ケプラー1658bは長い時間をかけて螺旋(らせん)を描くように主星へ接近し、いずれ破壊されるのは確実だとみられています。準巨星のように進化した恒星の周囲でこうした現象が観測されたのは、今回のケプラー1658bが初めてだといいます。
研究チームによると、ケプラー1658bの軌道減衰の原因は、主星であるケプラー1658との潮汐作用だと考えられています。ケプラー1658bは予想よりも明るく温度が高いように見えることから、火山活動が起きている木星の衛星イオのように、潮汐作用によって内部が加熱される潮汐加熱が起きている可能性もあるようです。ケプラー1658星系や今後見つかるかもしれない同様の惑星系の観測は、潮汐作用の理解を深めることにつながるとして期待が寄せられています。
Source
Image Credit: Gabriel Perez Diaz/Instituto de Astrofísica de Canarias CfA - Alien Planet Found Spiraling to its Doom around an Aging Star Vissapragada et al. - The Possible Tidal Demise of Kepler's First Planetary System (The Astrophysical Journal Letters)文/sorae編集部