ユーレカ・サイエンティフィック(Eureka Scientific)のMichael Koss上級科学研究員を筆頭とする研究チームは、「かに座」の方向約5億光年先にある銀河「UGC 4211」の中心部で、わずか750光年の距離を隔てて成長を続ける2つの超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)を発見したとする研究成果を発表しました。複数の波長で観測された超大質量ブラックホールのペアとしては観測史上最も狭い間隔だとされています。
UGC 4211は銀河どうしの合体の最終段階にあるとみられています。銀河の合体は遠方の(初期の)宇宙ではひんぱんに起きていたと考えられていますが、遠くにある銀河はそれだけ観測が難しくなります。そのため、天の川銀河から比較的近いところにあるUGC 4211は、銀河合体の最終段階を研究する上で理想的な候補とみなされています。
研究チームがUGC 4211の活動銀河核(AGN:Active Galactic Nuclei)を調べたところ、1つではなく近接した2つの超大質量ブラックホールが存在することが明らかになったといいます。多くの銀河の中心には太陽の数百万倍以上もの質量がある超大質量ブラックホールが存在すると予想されており、銀河中心の狭い領域から強い電磁波を放射する活動銀河核の原動力になっているとも考えられています。UGC 4211の中心にあるブラックホールの質量は、太陽の約2億倍および約1億2600万倍と推定されています。
今回の研究には「ハッブル」や「チャンドラ」といったアメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙望遠鏡をはじめ、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」やW.M.ケック天文台の「ケック望遠鏡」などによる観測データが用いられています。研究に参加したチリ・カトリック大学のEzequiel Treisterさんによると、ブラックホールの正確な位置は「アルマ望遠鏡(ALMA)」の観測データで示されました。
UGC 4211の超大質量ブラックホールのペアは限られた数の銀河を対象とした観測で見つかったことから、超大質量の連星ブラックホール(およびそれを生み出す銀河合体)は宇宙では驚くほどありふれたものかもしれないと研究チームは考えています。
Treisterさんは、これまでに特定されていない近接した超大質量の連星ブラックホールが数多く存在する可能性があるとすれば、超大質量ブラックホールどうしの合体にともなう重力波が近い将来ひんぱんに観測されるようになるかもしれないと期待を述べています。また、Kossさんは合体の最終段階にあるUGC 4211について、ブラックホールの合体と成長の関係や、最終的な重力波の生成に関する知見を与えてくれるとコメントしています。
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Image Credit: M. Koss (Eureka Scientific) et al./W. M. Keck Observatory, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); M. Weiss (NRAO/AUI/NSF) NRAO - ALMA Scientists Find Pair of Black Holes Dining Together in Nearby Galaxy Merger W.M.Keck Observatory - A Pair of Black Holes Dining Together in Nearby Galaxy Merger Koss et al. - UGC 4211: A Confirmed Dual Active Galactic Nucleus in the Local Universe at 230 pc Nuclear Separation文/sorae編集部