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NASA小惑星探査機「ルーシー」太陽電池完全展開の試みを一時停止 電力レベルは期待通り

sorae.jp 2023年1月25日 17時1分

【▲ 木星のトロヤ群小惑星をフライバイ探査する小惑星探査機「ルーシー」の想像図(Credit: Southwest Research Institute)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は1月19日、1年3か月前に打ち上げられた小惑星探査機「ルーシー(Lucy)」の完全に開ききっていない太陽電池アレイについて、条件が良くなるまで完全展開させる試みを一時停止すると明らかにしました。

2021年10月16日(日本時間)に打ち上げられたルーシーは、木星のトロヤ群小惑星8つ(2つの衛星を含む)と小惑星帯の小惑星1つ、合計9つの小惑星の探査を目的としています。複数の小惑星を訪問することから、ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間が予定されています。

【▲ ルーシーのミッション期間における水星~木星までの惑星(白)と木星のトロヤ群小惑星(緑)の位置を示したアニメーション。トロヤ群小惑星は木星(Jupiter)に先行するグループと後続するグループに分かれている(Credit: Astronomical Institute of CAS/Petr Scheirich (used with permission))】

木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にある「L4点」付近(公転する木星の前方)と「L5点」付近(同・後方)に分かれて小惑星が分布しています。

木星のトロヤ群小惑星は、初期の太陽系における惑星の形成・進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前は有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)にちなんで名付けられました。

【▲ ルーシーがフライバイ探査を行う小惑星の一覧(想像図)。上段左から:二重小惑星のパトロクルスとメノエティウス、エウリュバテス。下段左から:オラス、レウコス、ポリメレ、ドナルドヨハンソン。このうちエウリュバテスは衛星ケータを、ポリメレは1つの衛星をともなう(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab)】

関連:NASA探査機「ルーシー」10月16日打ち上げ予定、木星トロヤ群小惑星に初接近(2021年10月15日)

地球よりも太陽から遠く離れた木星の公転軌道付近まで飛行することから、ルーシーには直径7.3mという巨大な円形(正確には十角形)の太陽電池アレイが2基搭載されています。この太陽電池アレイは扇のように畳まれた状態で打ち上げられ、端に結び付けられている長さ約290インチ(約7.4メートル)のストラップをモーターで巻き取ることで展開する仕組みになっているのですが、片方の太陽電池アレイを完全に展開できなかったことが打ち上げ直後の時点で判明していました。

【▲ 小惑星探査機「ルーシー」の太陽電池アレイ展開試験の様子】
(Credit: NASA/Lockheed Martin, 2021)

NASAによると、展開が完了しなかった太陽電池アレイではストラップの巻き取りがあと20~40インチ(約51~102センチメートル)というところで止まってしまったとみられています。運用チームが残りのストラップの巻き取りを2022年5月から何度か試みた結果、問題の太陽電池アレイは98パーセント以上展開できたと推定されているものの、依然として固定機構にロックされるところまでは展開できていません。

ただ、ストラップに張力がかかったことで太陽電池アレイは安定した状態にあり、12年間のミッションを耐え抜くのに十分な強度が得られたと運用チームは推定しており、ロックされない状態での運用にともなうリスクは許容できるレベルだと判断されています。電力も期待通り得られていることから、ミッション遂行に十分な能力があると予想されています。

なお、ルーシーは打ち上げから1年後の2022年10月16日に軌道を変更するための第1回地球スイングバイを実施しており、この時は国際宇宙ステーション(ISS)が飛行する高度約400kmよりも低い高度を通過していきました。希薄とはいえ地球の上層大気の通過に成功したことで、太陽電池アレイの安定性が確かめられた形です。

関連:NASA小惑星探査機「ルーシー」第1回地球スイングバイを実施(2022年10月20日)

ストラップの巻き取りは2022年12月13日にも試みられたものの、わずかな効果しか得られなかったことから、完全展開の試みはしばらく停止されることになりました。地上試験では太陽に近くて探査機が温まっている時に展開を試みると最も効果的である可能性が示されているといいますが、第1回地球スイングバイで約2年周期の楕円軌道に乗ったルーシーは現在太陽から遠ざかりつつあるため、今後1年半は飛行中の太陽電池アレイに関する情報を集めつつ、再び太陽に接近する時期を待つことになります。

【▲ 太陽電池アレイの展開を完了した小惑星探査機「ルーシー」の想像図(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)】

NASAによると、2024年2月にはルーシーの主エンジンの初噴射が予定されており、この時に問題の太陽電池アレイがどのような挙動を示すのかが最も重要視されています。また、第2回地球スイングバイ(2024年12月12日)に向けてルーシーが地球に近付き、探査機の温度が上がってくる2024年秋頃には、リスクを軽減させるための追加手順が必要かどうかが運用チームによって再評価されるということです。

 

Source

Image Credit: Southwest Research Institute, NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab, NASA/Lockheed Martin NASA - NASA’s Lucy Mission Suspending Further Solar Array Deployment Activities (Lucy Mission - NASA Blogs)

文/sorae編集部

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