澄んだ暗い夜空ならば、人間は数千の星を肉眼で見ることができると言われています。しかし、急速に広がる光害(ひかりがい)の影響により、数多くの星が肉眼の視界から消えつつあります。
2023年1月19日付で「Science」誌に掲載された論文は、新しい市民科学研究に基づくもので、光害の一種である「スカイグロー(Skyglow)」の問題に警鐘を鳴らしています。スカイグローとは、地上で放たれた光が夜空に向かい、大気中の微粒子などで散乱されて戻ってくる現象のことで、「天空発光」とも呼ばれています。
本研究のデータは、米国科学財団(NSF)の国立光学・赤外線天文学研究所(NOIRLab)の天文学者Connie Walkerさんが開発したプログラム「Globe at Night」によって収集されました。論文の著者たちは、2011年から2022年の間に同プログラムへ提出された5万件を超える市民科学者の観測結果を分析しました。
その結果、平均的な夜空が毎年9.6%ずつ明るくなっていることが示されました。空の明るさは8年ごとに2倍になっていることになります。別の表現をすれば、250個の星が見える場所で生まれた子どもは、18歳になるまでに100個しか見えなくなることを意味しています。
今回の研究で示されたこの値は人工衛星によって測定された地表の明るさの年間増加率である2%をはるかに上回っており、既存の衛星がスカイグローの測定に不十分であることを示しています。衛星に搭載された機器はシアンや緑がかった青色に相当する500nmよりも短い波長に敏感ではありませんが、光は波長が短いほど大気中で散乱しやすく、スカイグローに与える影響が大きくなるからです。
さらに、屋外照明として現在普及が進んでいる白色LEDは、400〜500nmの間に発光のピークがあります。人間の目は夜になるとこうした短い波長に対して敏感になるため、LED照明の光が空の明るさの知覚に強く影響しているとのこと。衛星による測定値と「Globe at Night」の参加者による報告をもとに算出された値との間にみられる不一致は、このような理由による可能性もあると言います。
また、宇宙では地上から上向きに放射された光は測定することが可能ですが、看板を照らす照明や窓から漏れた光のように水平方向に放射された光はうまく測定できません。しかし、地上から見たスカイグローではこれらの光源も大きな要因となっています。そのため、市民科学者による観測はスカイグローの継続的な調査や、星空の保護にとって非常に重要と言えるでしょう。
なお、こちらの動画は市民科学者による本研究を簡単にまとめたもので、世界の全人口の約30%、米国では約80%の人たちが自然のままの夜空の眺めを失っていると伝えています。
Source
Video Credit: KPNO/NOIRLab/NSF/AURA/B. Tafreshi/R.T. Sparks/P. Marenfeld/N. Bartmann Image Credit: NOIRLab/NSF/AURA, P. Marenfeld NOIRLab - Stars Disappear Before Our Eyes, Citizen Scientists Report Science - Citizen scientists report global rapid reductions in the visibility of stars from 2011 to 2022文/吉田哲郎