こちらは「ちょうこくしつ座」の方向約35億光年先にある銀河団「エイベル2744(Abell 2744)」です。エイベル2744は複数の銀河団が衝突した結果形成されたと考えられており、画像には3つの大規模な銀河団が集まってさらに大きな集団を形成している様子が捉えられています。銀河団の衝突によってさまざまな現象が引き起こされたとみられることから、エイベル2744はギリシャ神話のパンドラの箱にちなんで「パンドラ銀河団(Pandora's Cluster)」の別名でも呼ばれています。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の「近赤外線カメラ(NIRCam)」を使って取得した複数のデータ(赤外線のフィルター6種類を使用)をもとに作成されました(※1)。画像の横幅は満月の視直径の5分の1程度ですが(視野は5.88×4.47分角)、合計約30時間の観測時間を費やして得られた画像4点を組み合わせたパノラマとして作成されています。
※1…ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されたものです。この画像では1.15μmと1.5μmが青、2.0μmと2.77μmが緑、3.56μmと4.44μmが赤で着色されています。
視野全体に散らばる数多くの天体は、そのほとんどが数百億~数千億の恒星からなる銀河です。ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、エイベル2744に属する銀河やその背後に存在するより遠方の銀河も含めて、この画像には近赤外線を放つ天体が約5万個も写っているといいます。
ウェッブ宇宙望遠鏡によるエイベル2744の観測を行った「UNCOVER」プログラムの共同主任研究員を務めるピッツバーグ大学の天文学者Rachel Bezansonさんは、送られてきた画像を初めて見た時のことを「非常に詳細な前景の銀河と重力レンズ効果(※2)を受けた数多くの遠方銀河が写る画像に、私自身が迷い込んだようでした」と振り返っています。また、同じくUNCOVERプログラムの共同主任研究員を務めるスインバン工科大学の天文学者Ivo Labbeさんは「まるで銀河形成のシミュレーションのように美しく、実際のデータであることを思い出さなければなりませんでした」と語っています。
※2…手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像が歪んだり拡大して見えたりする現象のこと。
ウェッブ宇宙望遠鏡による今回の観測は、UNCOVERプログラムが計画している観測の始まりにすぎません。同プログラムは次のステップとして、取得された画像を綿密に調査し、NIRCamによるフォローアップ観測を行うための銀河を選び出します。2023年の夏に予定されているエイベル2744のさらなる観測により、重力レンズ効果を受けた遠方銀河の化学組成や正確な距離といった情報が得られることで、初期宇宙における銀河の形成と進化についての新たな知見がもたらされると期待されています。
冒頭の画像はSTScI、アメリカ航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)から2023年2月15日付で公開されています。
Source
Image Credit: NASA, ESA, CSA, I. Labbe (Swinburne University of Technology), R. Bezanson (University of Pittsburgh), A. Pagan (STScI) STScI - NASA’s Webb Uncovers New Details in Pandora’s Cluster ESA/Webb - Webb Uncovers New Details in Pandora’s Cluster NASA - NASA’s Webb Uncovers New Details in Pandora’s Cluster文/sorae編集部