こちらは南天の「とけい座」の方向約4600万光年先にある棒渦巻銀河「NGC 1433」です。といっても、見慣れた渦巻銀河の画像とは印象が違い、まるで真っ暗な水面に生じた渦を上から覗き込んでいるかのようです。
その理由は、人の目が捉える可視光線ではなく、赤外線の波長でNGC 1433を見ているから。この画像は「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の「中間赤外線観測装置(MIRI)」を使って取得したデータをもとに作成されました(※)。ウェッブ宇宙望遠鏡や「ハッブル」宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、MIRIは星間物質を構成する塵やガスから放射された赤外線を捉えており、渦巻腕(渦状腕)に沿って分布する幾つもの泡状の構造が詳細に描き出されています。中心部分のリング構造は、渦巻腕の根元の部分がNGC 1433の銀河中心核にきつく巻き付いたことで形成されたものだといいます。
※…ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されたものです。この画像では7.7μmが青、10μmと11μmが緑、21μmが赤で着色されています。
塵には可視光線を吸収・散乱させる性質があるため、ウェッブ宇宙望遠鏡で明るく見える部分の多くは、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像(記事の最後に掲載)では逆に暗く写っています。MIRIで捉えられた赤外線は形成中の星から放たれた光を吸収した塵やガスによって放射されているため、星間物質中の塵がどのようにして光を吸収して赤外線を放射し、塵とガスの複雑な構造を照らし出しているのかを理解する上でMIRIのデータが役立つと、観測を行った「PHANGS」プロジェクトに参加しているカリフォルニア大学サンディエゴ校のKarin Sandstromさんは語っています。
PHANGS(Physics at High Angular resolution in Nearby GalaxieSの略)プロジェクトは近傍の銀河における星形成を理解するために、ハッブル宇宙望遠鏡、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」による様々な波長の電磁波を利用した高解像度の観測を何年にも渡って行ってきました。新たに加わったウェッブ宇宙望遠鏡の観測データは、時間の経過にともなう銀河の進化の全体像についての知見をもたらしてくれると期待されています。STScIによると、MIRIのデータが示す明るさや塵の少なさは、NGC 1433がそう遠くない過去に別の銀河と衝突したことを示唆している可能性があるということです。
冒頭の画像はSTScI、アメリカ航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)から2023年2月16日付で公開されています。
Source
Image Credit: NASA, ESA, CSA, and J. Lee (NOIRLab), A. Pagan (STScI) / ESA/Hubble, NASA; Acknowledgements: D. Calzetti (UMass) and the LEGUS Team STScI - NASA’s Webb Reveals Intricate Networks of Gas and Dust in Nearby Galaxies NASA/JPL - NASA’s Webb Reveals Intricate Networks of Gas, Dust in Nearby Galaxies ESA/Webb - Webb Reveals Intricate Networks of Gas and Dust in Nearby Galaxies文/sorae編集部