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重力レンズ効果を受けた銀河の姿をウェッブ宇宙望遠鏡が観測 超新星の輝きも

sorae.jp 2023年3月3日 22時9分

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得された銀河団「RX J2129」(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, P. Kelly)】

こちらは「みずがめ座」の方向約32億光年先の銀河団「RX J2129」を捉えた画像です。中心から見て右上には銀河団で最も明るい銀河(Brightest Cluster Galaxy:BCGと呼ばれる)が写っています。興味深いのは、明るい銀河の周辺に幾つか見えているアーチ状の天体。これらはRX J2129による「重力レンズ」効果を受けたために、歪んで見えている天体です。

重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球では像が歪んだり拡大されたり、時には同じ天体の像が複数に分裂して見えたりする現象のこと。この画像の場合、銀河団の向こう側にある銀河を発した光の進む向きが変化することで、地球からは歪んだ像として見えているのです。

欧州宇宙機関(ESA)によると、ここには重力レンズ効果で3つに分裂した同じ銀河の像も写っています。その銀河では2022年8月7日に超新星「AT 2022riv」が見つかったのですが、不思議なことに、この画像に写っている3つの像でAT 2022rivが現れているのは1つだけで、他の2つには現れていないといいます。

その理由は、重力レンズ効果によって光の進行方向が変化したために、光が地球へ届く間に進む距離(光が地球へ届くまでの所要時間)もまた像によって異なっているから。3つの像はどれも同じ銀河の像ですが、地球へ光が届くまでに一番時間が掛かる像に対して、他の2つの像では320日、あるいは1000日だけ早く地球へ光が届きます。別の言い方をすれば、同じ銀河の320日後と1000日後の様子も同時に観測できる、ということになります。

今回の場合、超新星は光が届くまでに一番時間が掛かる像……すなわち3つに分裂した像のうち一番古いものにだけ現れましたが、320日後と1000日後の様子を反映している他の2つの像では、もうすでに見えなくなっていたというわけです。数十億年という時の流れに比べればほんのわずかな時間差ですが、それでも見えたり見えなかったりするところに、超新星が短い期間で進行する現象であることを改めて実感します。

【▲ 超新星「AT 2022riv」が検出された銀河の3つに分裂した像(右列)と、冒頭の画像における位置を示した図。中段の拡大画像には超新星が写っているが、下段の320日後の像および上段の1000日後の像では、すでに超新星は見えなくなっている(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, P. Kelly)】

冒頭の画像は「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータ(赤外線のフィルター6種類を使用)をもとに作成され(※)、ESAから“ウェッブ宇宙望遠鏡の今月の一枚”として2023年2月28日付で公開されました。

※…ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されたものです。この画像では1.15μmと1.5μmが青、2.0μmと2.77μmが緑、3.56μmと4.44μmが赤で着色されています。

なお、AT 2022rivは白色矮星が関わる「Ia型超新星」の可能性があるといいます。真の明るさがほぼ一定とされるIa型超新星は、観測された見かけの明るさをもとに地球からの距離を割り出せることから、宇宙での距離測定に用いられる「標準光源」のひとつとして活用されている現象です。

ESAによると、ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamによるAT 2022rivの明るさの測定および「近赤外線分光器(NIRSpec)」による分光観測(電磁波の波長ごとの強さであるスペクトルを得るための観測)を行ったことで、近傍宇宙のIa型超新星と遠方宇宙の超新星を比較できるようになりました。このことは、これまで十分に試されてきた距離測定の手法のひとつが期待通り機能するのかどうかを確認する上で重要なことだということです。

 

〈記事中の距離は天体から発した光が地球で観測されるまでに移動した距離を示す「光路距離」(光行距離)で表記しています〉

Source

Image Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, P. Kelly ESA/Webb - Seeing Triple

文/sorae編集部

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