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「流星のワイン」は真実だった? フランスのブドウ畑でクレーターを発見

sorae.jp 2023年3月14日 17時20分

地表に隕石が衝突すると「クレーター」と呼ばれる窪地が形成されますが、地球においてその数は少なく、現存するものはわずか190ほどと推定されています。月の表面に9000以上のクレーターがあることを踏まえれば、より大きな地球におけるクレーターの少なさが際立つでしょう。地球にはプレートテクトニクスや風化作用があるため、地下に沈み込んだり風雨に削られてしまったりすることで、クレーターやその痕跡は消えてしまうのです。実際、地球にあるクレーターで視覚的にわかるものはほとんどなく、大半は地質調査やその他の証拠で存在が確認できたものばかりです。

【▲ 図1: ドメーヌ・デュ・メテオールはワイン向けのブドウ畑であり、隕石衝突によるクレーターであると数十年前に主張された。しかし科学的には長年認められておらず、もっぱらマーケティング戦略としてメテオールと名付けられていたに過ぎなかった(Credit: Domaine du Météore YouTube)】

西ヨーロッパでは、これまでに3つのクレーターが見つかっています。フランスのロシュシュアール、ドイツのネルトリンガー・リース (リース・クレーター) 、同じくドイツのシュタインハイム・クレーターです。

しかし、この3つ以外にもクレーターだと主張された場所があります。その1つがフランス南部の「ドメーヌ・デュ・メテオール (Domaine du Météore)」です。ワイン用のブドウ畑が広がるこの地は、直径約220m、深さ約30mの盆地になっています。そしてMétéore (フランス語で流星) という地名の通り、1950年代には実際に隕石衝突で形成されたクレーターだと主張されたことがあります。

ただ、この主張はその数年後に却下されました。クレーターの典型的な特徴である縁や磁気異常が見つからなかったことがその理由です。ドメーヌ・デュ・メテオールは科学的にクレーターだとは認められないまま、ワインのマーケティングとしてクレーターだと主張されるに留まる状態が長年続いていました。

そんななか、休暇中にドメーヌ・デュ・メテオールを訪れたヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学フランクフルト・アム・マインのFrank Brenker氏は、この地が隕石衝突によるクレーターであるという主張を知ると同時に、クレーター説を否定する盆地地形の形成プロセスが、実際には地質学的な説得力を伴わないことに気づきました。

そこで、 Brenker氏が岩石のサンプルを調べてみたところ、隕石衝突を示唆する証拠が見つかりました。例えば「結晶片岩」という岩石には普通なら雲母が豊富に含まれているだけですが、ドメーヌ・デュ・メテオールの結晶片岩では岩石の破砕によって生じた脈が見つかりました。また、大小さまざまな岩石の破片がコンクリートのように固まった角礫岩は、隕石の衝突で粉砕された岩石が固まってできた他のクレーターの角礫岩とよく似ていました。

【▲ 図2: 今回の研究で見つかった金属小球。鉄とニッケルで構成されており、極小のダイヤモンドや衝撃石英など、隕石衝突の証拠を示す様々な鉱物が見つかった(Credit: Frank Brenker, Goethe University Frankfurt)】

更なる証拠を得るために、Brenker氏は同僚のAndreas Junge氏や学生と共にドメーヌ・デュ・メテオールを再び訪れ、追加の調査を行いました。その結果、Brenker氏らはこの地の地磁気が周辺地域と比べてわずかに弱いことを発見しました。これはクレーターにみられる典型的な磁気異常ですが、周辺地域との差が余りにも小さいため、1950年代の研究では見逃されていました。

また、地面からは磁石に引き寄せられる酸化鉄の小さな球が多数見つかりました。球のサイズは平均直径0.2mm、最大で直径1mm。主成分は隕鉄 (金属成分の多い隕石) の典型的な成分である鉄とニッケルの合金であり、このような金属の小球は小さなクレーターでも発生することが知られています。

さらに、隕石の衝突にともなう高温の環境で生成される極めて小さなダイヤモンドなどの鉱物や、石英が激しい衝撃を受けたことを示す隕石の衝突以外では考えにくい証拠も見つかりました。これらの証拠によって従来の判断は覆され、ドメーヌ・デュ・メテオールは実際に隕石の衝突で形成されたクレーターであることが判明しました。

なお、ドメーヌ・デュ・メテオールでは盆地の中を2つの河川が南北に流れており、その浸食作用によって縁が消えてしまったと推定されています。現在も残っている盆地はクレーター全体ではないと思われますが、元々の直径がどれくらいだったのかは不明です。

今回の発見は、1つ1つの証拠だけでは隕石衝突によるクレーターだと主張するには弱いものの、全ての証拠を同時に説明できる原因は隕石衝突しか考えにくいものです。Brenker氏の訪問がきっかけとなった今回の成果により、ドメーヌ・デュ・メテオールはマーケティングのブランドとしてだけではなく、本当にクレーターにあるワイン畑の可能性が高くなりました。

 

Source

Frank E. Brenker & Andreas Junge. “Impact origin of the “Domaine du Meteore”-crater, France. Compelling mineralogical and geophysical evidence for an unrecognized destructive event in the heart of Europe”. (Lunar and Planetary Science Conference) “Meteorite crater discovered in French winery”. (Johann Wolfgang Goethe-Universität Frankfurt am Main)

文/彩恵りり

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