2023年3月28日の夜、西の空では火星と月が寄り添って輝く様子が見られます。これが「火星と月の接近」です。
火星は2022年12月8日に衝(※1)を迎え、マイナス2.0等級と非常に明るく輝いていましたが、衝を過ぎた後は明るさがだんだん落ちていきます。とはいえ、3月28日の時点でも火星は0.9等級というそこそこの明るさで、恒星とは異なる不思議なピンク色の輝きが印象的です。
一方、月は半月からやや欠けた形をしています。3月28日の火星と月の離角(※2)は2度17分で、満月4.5個分の距離にまで近づきます。
※1…衝:太陽系の天体が、地球から見て太陽の反対側になる瞬間。衝前後の天体は最も明るくなり、また一晩中見ることができる。
※2…離角:天球上で観測点から見た2つの天体間の距離を角距離で表したもの。
地球から見て火星と月が接近するのは決して珍しい現象ではなく、毎月1回程度の頻度で起こっています。最近の火星と月の接近を表にすると、以下のようになります。
月は火星だけではなく、金星や木星といったほかの惑星と接近する様子も良く見られます。これは、地球上から見た時に、惑星や月がほぼ同じ経路を通っているためです。
太陽を地球上から見ると、1年かけて天球上の決まった経路を通ります。これを「黄道」といいます。また、月も同じように、一ヶ月かけて天球上の決まった経路を通ります。こちらは「白道」といいます。白道は黄道に対してやや傾いているものの、ほぼ一致しています。そのため、月は黄道に近い所を通るように見えます。
また、地球を含む太陽系の惑星は、公転軌道がほぼ同一平面上にあります。そのため地球上からは、惑星の軌道は黄道に近い範囲でほとんど重なっているように見えます。
このように、太陽、月、惑星は、地球上から見ると黄道もしくは黄道にほぼ近い経路を通っているため、天体同士が接近する機会が多くなるのです。もしも月や惑星がバラバラの経路で天球上を動いていたら、接近は非常に珍しい現象になったことでしょう。
中でも月は動きが早く、約1か月で軌道を一周します。一方、火星は軌道を1周するのに2年以上を要します。月は大体1か月に1度程度の頻度で火星を追い越すことになるため、その度に接近が起こるのです。
しかし、1か月に1度接近するからといっても、その様子が毎回見られるとは限りません。
先ほどの表を見るとわかる通り、火星と月の接近が見やすい時間帯は徐々に早くなっていきます。現在は夜の時間帯に接近する様子が見えるものの、何か月か経って昼の時間帯に接近するようになると、太陽の光が明るくて見ることはできません。
また、地球に最接近した後で火星自体の明るさが少しつづ暗くなっていることや、夏に向けて夜が短く、昼が長くなっていくことから、月と火星の接近はだんだん見えづらくなっていきます。
去年の秋口から今年の春にかけて星空の中に輝いていた火星とも、しばらくの間お別れです。
そう考えると、実際には頻繁に起こっている月と火星の接近も、特別なものに思えてくるかもしれません。
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Image Credit: sorae編集部 参考: 天文年鑑 2022 / 天文年鑑 2022 天文年鑑編集委員会編著 誠文堂新光社 こよみのページ 国立天文台 - 月が火星に接近(2023年3月)文/sorae編集部