アラスカ大学フェアバンクス校地球物理学研究所のRobert Herrickさんとアメリカ航空宇宙局ジェット推進研究所(NASA/JPL)のScott Hensleyさんは、NASAの金星探査機「マゼラン(Magellan)」のミッション中に金星で火山活動が起きていた可能性を示す研究成果を発表しました。
1989年5月4日にスペースシャトル「アトランティス」から放出される形で打ち上げられたマゼランは、1990年8月から1994年10月にかけて金星を周回しつつ、合成開口レーダー(SAR)による表面のレーダー観測を行った探査機です。マゼランなどのミッションで取得されたデータをもとに、金星では火山や溶岩流で形成されたとみられる地形の存在が判明していますが、現在も火山活動が続いているのか否かについてはまだ結論が出ていません。
マゼランによる観測で得られた金星表面のデータを分析していたHerrickさんHensleyさんは、1991年2月中旬と同年10月中旬に取得された画像を比較した時に、金星のマアト山(Maat Mons)付近で地形の変化がみられることに気が付きました。
金星の赤道付近に位置するマアト山は、標高約8km(金星の平均半径からの高さ)、直径約400kmの大きな火山です。2人が発見した地形の変化はマアト山の北麓に生じており、1991年2月には円形だった1つの火口が8か月後の同年10月には不規則な形に拡大していただけでなく、火口の北側には溶岩流のような新たな地形が形成されているようだといいます。また、2月の火口は内部が深くて壁面も急峻に見えるものの、10月の火口は内部が浅くなっていて、何かに満たされているように見えるとされています。
今回の研究に使われたのは30年以上前に取得された解像度の低いデータであり、そのうえ2つの画像が取得された時に探査機が向いていた方向も違っていた(2月の画像は東向き、10月の画像は西向き)ため、分析は複雑な作業になったといいます。2人は火口の形が変化した理由を探るためにシミュレーションモデルも作成してテストを行った結果、このような変化を引き起こす可能性が最も高いのは火山の噴火だけだと結論付けました。
NASAと欧州宇宙機関(ESA)は今後10年ほどの間に金星探査ミッションの実施を計画しており、そのなかにはJPLのHensleyさんがプロジェクトサイエンティストを務めるNASAの「VERITAS」ミッションも含まれています。
2021年6月に選定されたVERITASは、周回探査機に搭載された合成開口レーダーで取得した観測データをもとに金星表面の高解像度な立体地形図を作成し、近赤外線分光計を使って表面の組成を調査し、重力場を測定して金星の内部構造を探ることなどを目的としています。合成開口レーダーは2回分の観測データを比較することで地表の変化を検出する干渉SAR解析(InSAR)にも利用できるため、VERITASミッションでは今まさに起きている金星の火山活動が捉えられるかもしれません。
VERITASの副主任研究員を務めるテュレーン大学のJennifer Whittenさん(今回の研究には不参加)は今回の成果を受けて、「30年前に金星で火山活動が起きたことを私たちはいま確信しています」「この成果はVERITASがもたらすであろう驚くべき発見を予告するものです」とコメントしています。VERITASはNASAが計画中のもう1つの金星探査ミッション「DAVINCI+」とともに、2028年から2030年の実施が予定されています。
Source
Image Credit: NASA/JPL-Caltech, Robert Herrick/UAF NASA/JPL - NASA’s Magellan Data Reveals Volcanic Activity on Venus University of Alaska Fairbanks - UAF scientist offers evidence that Venus is volcanically active Herrick et al. - Surface changes observed on a Venusian volcano during the Magellan mission (Science)文/sorae編集部