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自由浮遊惑星の衛星にも生命? 16億年間に渡って穏やかな環境が存在する可能性も

sorae.jp 2023年3月28日 22時1分

通常の文脈で “惑星” という単語が出た場合、それは恒星など何らかの天体の周りを公転する天体を指します。しかし、宇宙にはどの天体の周りも公転せず、単独で宇宙空間をさまよっている惑星も見つかっています。これを「自由浮遊惑星」 (※) と呼びます。

※…Free-Floating Planet (FFP) 、Rogue Planet。浮遊惑星、はぐれ惑星とも。

自由浮遊惑星は恒星からエネルギーを受けていないので、崩壊熱をもたらす放射性元素が豊富に含まれているなど何らかの条件が整っていない限り、その表面は冷え切っているはずです。私たちが知る限り、生命には液体の水が必須であるため、このような天体には生命が存在するとは思えません。しかし、自由浮遊惑星の “衛星” では話が変わってきます。

惑星の周りを回る衛星は、惑星に近い側と遠い側で、わずかながらも異なる強さの重力を受けます。衛星の公転軌道が楕円形の場合は重力の強さが変化するので、衛星はゴムボールのように伸び縮みします。これを「潮汐力」と呼びます。

潮汐力による変形は摩擦によって天体内部を加熱して、激しい地熱を発生させます。木星の衛星「イオ」は、潮汐力によって多大な熱が発生している天体の代表例です。地球と比べて太陽から遠くにあるイオの表面温度は-160℃ですが、木星からの潮汐力によって1000℃を超えるマグマを地表に噴出させています。噴火の頻度が地球よりもはるかに激しいことは、条件さえ揃っていれば、冷たい天体から大量の地熱が外へと噴出されるわかりやすい事例でもあります。

このことから、もしも自由浮遊惑星の衛星に大気があれば、潮汐力によって生じた熱が長期間保持されることで、結果的に衛星の表面に液体の水が存在するのに十分な気温が維持される可能性があると考えることができます。2021年には、条件さえ整えば衛星表面に液体の水が保持される可能性を示した研究成果が発表されています。

関連:宇宙をさまよう自由浮遊惑星の衛星表面にも液体の水が存在?(2021年6月11日)

【▲ 図1: 論文著者らがMidjourneyを使用して生成した、液体の水を保持する衛星の想像図(via: Origins-Cluster)】

しかし、自由浮遊惑星の衛星が生命に適する環境を保持するのかどうかは、これまではほとんどわかっていませんでした。私たちがよく調べている天体は太陽系の内部に留まるため、星間空間をさまよう自由浮遊惑星をその近くから調べた例は存在しません。また、強い潮汐力および濃い大気という2つの条件を揃えた天体も太陽系には存在しません。そのため、自由浮遊惑星の衛星の環境をシミュレーションしようにも、不確定要素が多すぎるという問題がありました。

さらに、自由浮遊惑星が誕生する経緯についても難点が存在します。自由浮遊惑星は単独で誕生するのではなく、元々はどこかの恒星の周りを公転する惑星として誕生すると考えられています。そんな普通の惑星が自由浮遊惑星になるためには、誕生した惑星系の中で複数の巨大惑星が接近した軌道を公転しているなどの力学的に不安定な条件が揃った場合に、互いの公転軌道が急激に変化して1つの惑星が放り出される、といった現象が起こると推定されます。放り出される惑星 (=自由浮遊惑星) は惑星同士の接近による力学的作用を受けるため、放り出される直前にはこの惑星を公転する衛星の公転軌道も影響を受けます。場合によっては衛星が惑星から外れたり、惑星に衝突したりする可能性もあります。こうした一連の公転軌道の変化は「多体問題」と呼ばれていて、実質的にはシミュレーションでしか解けない難問として知られています。

ミュンヘン大学のGiulia Roccetti氏などの研究チームは、数千個の衛星系をシミュレーションして、自由浮遊惑星の衛星ではどのような条件が揃えば生命に適する環境が長期間維持されるのかを調べました。

まず調べられたのは、普通の惑星が自由浮遊惑星になる過程で衛星が生き残るかどうかです。研究チームは太陽と同じ質量の恒星の周りに木星と同じ質量を持つ惑星が3つ存在する仮想の惑星系を設定して、数千回のシミュレーションを実行しました。その結果、大部分の惑星系では軌道が不安定になって1つの惑星が飛び出すか、あるいは衝突するという結果になりました。

シミュレーション上で惑星系から飛び出した惑星には地球と同じ質量を持つ衛星が1つだけ存在していますが、この軌道がどのように変化するのかも調べられました。前提とする条件によって結果は異なるものの、生存率が低かったシミュレーションでも約29%の衛星が、惑星の重力圏から離脱したり惑星に落下したりするような事態を避けて生存することがわかりました。また、この時に大部分の衛星の公転軌道が楕円形に変化することもわかりました。

今回のシミュレーションでは衛星が1つしか存在しないことを前提としていたため、楕円形の公転軌道は重要です。潮汐力を受ける衛星の公転軌道の形状は、楕円から真円へと変化していきます。軌道が真円に近いほど潮汐力は小さくなっていくので、地熱の発生量も減っていき、いつかはゼロになるからです。研究チームが様々な軌道を検討した結果、軌道離心率 (どれくらい楕円かを示す値) よりも最初に決定された軌道長半径 (楕円の中心から最も遠くなる距離) が重要であることがわかりました。

具体的には木星の半径の15倍から25倍の軌道長半径が適しており、これは木星で言えばガニメデ (約15.0倍) からカリスト (約26.3倍) とほぼ同じ距離です。これよりも惑星に近い場合には潮汐力が強すぎて水の沸点を超える地熱が発生するか、急激に軌道が真円に変化して熱の発生期間が短くなる傾向にあります。逆に、遠い場合には十分な潮汐力が発生しません。

【▲ 図2: 液体の水を保持する環境が維持される推定期間。大気圧が高いと仮定するほど、その期間が伸びていることが分かる。 (Image Credit: Giulia Roccetti, et.al.) 】

また、温室効果によって熱が保持される二酸化炭素が優勢な大気を仮定した時に、液体の水を保持するのに十分な気温が保たれる期間も推定されました。気圧が0.1気圧の大気の場合にはわずか730万年しか持続しませんが、1気圧の場合は4500万年後に気温がピークに達し、5200万年後まで持続すると考えられています。10気圧の場合は1億8000万年後をピークに2億7600万年後まで、100気圧の場合は7億5000万年後をピークに16億年後まで持続すると考えられます。

100気圧という値は太陽系では金星の大気に匹敵する気圧であり、これらの衛星の約2%がこの条件を満たすと考えられます。16億年というタイムスケールは地球で生命が誕生するまでにかかった時間よりも長いため、条件が整った自由浮遊惑星の衛星で生命が誕生するにも十分な長さであると考えられます。

今回の結果は様々な点で制約があるシミュレーションをもとにしているため、実際にそのような環境が自由浮遊惑星の衛星で成り立つのかは未知数です。そのため、今回の結果はさらなる研究で改善される可能性が高いと見られています。

 

Source

Giulia Roccetti, et.al. “Presence of liquid water during the evolution of exomoons orbiting ejected free-floating planets”. (International Journal of Astrobiology) “Leben auf fernen Monden”. (Origins-Cluster)

文/彩恵りり

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