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4年後に打ち上げ予定の宇宙望遠鏡が宇宙の時間の「巻き戻し」を可能にする?

sorae.jp 2023年4月8日 10時45分

【▲ローマン宇宙望遠鏡の想像図(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)が2027年5月に打ち上げ予定の「ナンシー・グレース・ローマン」宇宙望遠鏡(以下、ローマン宇宙望遠鏡)は、大規模な銀河サーベイによって宇宙の歴史を明らかにすることを期待されています。

NASAゴダード宇宙飛行センターのAaron Yung氏らの研究グループは、銀河や銀河団が進化してきた様子を明らかにするために、宇宙の時間を「巻き戻す」手法を提案しました。研究グループによると、開発した手法はローマン宇宙望遠鏡が打ち上げられることで完遂するようです。

銀河や銀河団の形成過程を捉える

宇宙の大規模構造は、銀河や銀河団が密集する領域と、銀河がほとんど存在しないボイド(超空洞)と呼ばれる領域とが織りなす、いわば「フィラメント状(ひも状)」の構造をしています。これは、私たちが電磁波では直接観測できないダークマター(暗黒物質)の重力が、銀河や銀河団を引き付けているからだと考えられています。

宇宙の大規模構造の形成については、(冷たい)ダークマターとダークエネルギー(暗黒エネルギー)を含む、加速膨張する宇宙のモデル「Λ(ラムダ)CDMモデル」が標準モデルとして認知されています。宇宙の標準モデルによると、初期宇宙を満たすプラズマ状態のガスには「量子ゆらぎ」が存在し、ダークマター粒子が引き寄せられたといいます。その後、宇宙の膨張によって量子ゆらぎが拡大するにつれ、宇宙空間中のダークマターの密度に差が生じます。ダークマター粒子が集積した「ダークマターハロー」の重力に星の材料となるガスが引き寄せられ、星や銀河が生成・合体していった結果、宇宙の大規模構造が形成されたといいます。

そのいっぽうで、銀河や銀河団の分布がどのように進化していったのかを宇宙の標準モデルの枠組みで定量的に扱うことは非常に困難だといいます。銀河の形成と進化では、星間ガスの冷却や星の形成、超新星爆発など数多くの物理過程が複雑に繰り返されており、完全には理解されていないため、これらの物理過程を取り込んでシミュレーションを実行することはできないようです。

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研究グループは、銀河の形成に関して十分検証されているモデルを使ってシミュレーションを実行しました。このシミュレーションでは、500万個以上の銀河を含む領域(満月の見かけの大きさの約10倍)に相当する仮想の天空が網羅されています。研究グループによると、従来の手法ではシミュレーションを完了するまでに数年が費やされる数千万個の銀河を、本手法では1日未満でシミュレーションできるといいます。

広視野のサーベイに最適な「ローマン」宇宙望遠鏡

研究グループは、星形成を支配する物理過程と星形成の傾向などの間にある関係についての理解を補うのが、ローマン望遠鏡で得られる観測データだと位置づけています。

宇宙が進化する歴史で銀河がどのように形成されてきたのかを調査する役割を従来担ってきたのは「ハッブル」宇宙望遠鏡でした。しかしYung氏によると、ハッブル宇宙望遠鏡や「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡は、「針の穴から覗くように」……つまり狭い視野で天体を調べることに最適化されています。

いっぽう、ローマン宇宙望遠鏡はハッブル宇宙望遠鏡と同じ直径2.4mの主鏡を搭載しますが、観測装置として300メガピクセルの広視野カメラ「WFI(Wide Field Instrument)」を搭載します。このため、ローマン宇宙望遠鏡の視野の広さはハッブル宇宙望遠鏡の約100倍に達します。研究グループによると、こうしたローマン宇宙望遠鏡の視野の広さや旋回速度などのおかげで、ハッブル宇宙望遠鏡の約1000倍のスピードで宇宙内の領域をマッピングできるようです。

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【▲仮想的な宇宙の時空に散らばった数百万の銀河をシミュレーションした像。白がハッブル宇宙望遠鏡の観測領域、黄色がローマン宇宙望遠鏡の観測領域に対応する。(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center and A. Yung)】

今回提案したモデルを検証するには、実際にローマン宇宙望遠鏡で観測することが不可欠だと研究グループは述べています。ローマン宇宙望遠鏡が打ち上げられてデータが収集されれば、シミュレーション結果との比較が可能となります。これにより、銀河の形成やダークマターなど、宇宙に関する多くの謎が明らかになる模様です。

https://sorae.info/wp-content/uploads/2023/03/rewind_the_universe.webm

【▲シミュレーションで仮想的な宇宙のスナップショットを巻き戻す様子。宇宙の大規模構造へとどのように成長したかが明らかになる。】
(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center/A. Yung)

Yung氏は、「(ローマン宇宙望遠鏡のもつ広視野サーベイの能力により)初期宇宙の全景が与えられることで、ハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって“針の穴”から覗くように取得されたスナップショットが、(ローマン宇宙望遠鏡によって明らかにされる)初期宇宙の当時の姿とどのくらい対応しているのかを理解しやすくなるだろう」と期待を寄せています。

関連: 重力相互作用の影響を“巻き戻す”ことで「宇宙の大規模構造」の起源に迫る手法を検証

 

Source

Image Credit: NASA NASA - How NASA’s Roman Space Telescope Will Rewind the Universe Roman Space Telescope doi:10.1093/mnras/stac3595 - Semi-analytic forecasts for Roman – the beginning of a new era of deep-wide galaxy surveys doi:10.1046/j.1365-8711.1999.03032.x - Semi-analytic modelling of galaxy formation: the local Universe doi:10.1093/mnras/stv1877 - Star formation in semi-analytic galaxy formation models with multiphase gas

文/Misato Kadono

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