こちらは「ふたご座」の方向にある二重クエーサー「J0749+2255」です。画像は「ハッブル」宇宙望遠鏡の「広視野カメラ3(WFC3)」で取得したデータをもとに作成されました。左下のスケールバーは1秒角(満月の視直径の約1800分の1)を示しています。
クエーサー(Quasar)とは、銀河中心の狭い領域から強い電磁波を放射する活動銀河核(AGN)のなかでも、特に明るいタイプを指す言葉です。J0749+2255のような二重クエーサーは、合体しつつある2つの銀河の中心核がそれぞれクエーサーとして輝くことで、一対のクエーサーとして見えていると考えられています。
クエーサーをはじめとした活動銀河核の原動力は、質量が太陽の数十万倍から数十億倍にもなる超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)だと考えられています。ブラックホールに引き寄せられたガスなどの物質は真っすぐに落下していくのではなく、ブラックホールを周回しながら降着円盤と呼ばれる構造を形成しつつ、らせん状に落下していきます。物質が落下する過程で重力エネルギーが解放されると降着円盤は高温になり、そこから様々な波長の電磁波が放射されるのです。J0749+2255の原動力となっている2つのブラックホールの質量は、それぞれ太陽の約12億倍および約15億倍と推定されています。
ハッブル宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、私たちが見ているのは約106億6100万年前(赤方偏移z=2.17)のJ0749+2255の姿です。これほど古い時代、別の言い方をすればこれほど遠い宇宙の天体であるにもかかわらず、ハッブル宇宙望遠鏡は約1万2000光年しか離れていない2つのクエーサーを分離して捉えることに成功しました。100億年以上が経った現在、J0749+2255は巨大楕円銀河に進化している可能性があるようです。
冒頭の画像は2年前の2021年4月にすでに公開されていましたが、クエーサーと地球の間に存在する別の銀河による重力レンズ効果(※)を受けた単一のクエーサーの像が、地球では2つに分裂して見えている可能性が残されていました。今回、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の大学院生Yu-Ching Chenさんを筆頭とする研究チームが発表した研究成果によると、ハワイのW.M.ケック天文台で観測を行った結果、重力レンズ効果をもたらす銀河は存在しない……つまり、J0749+2255には実際にクエーサーが2つ存在することが確かめられました。
※…手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球では像が歪んだり拡大されたり、時には同じ天体の像が複数に分裂して見えたりする現象のこと。
関連:最も古い「100億年前の二重クエーサー」一度に2つも発見(2021年4月11日)
STScIによれば、宇宙の誕生から30億年ほどしか経っていない頃の二重クエーサーが見つかるのはめずらしいことだといいます。J0749+2255をはじめとした古い時代の二重クエーサーの観測は、今から100億年ほど前に激しい星形成活動が起きた「宇宙の正午(cosmic noon)」とも呼ばれる時代の銀河の進化に関する手掛かりになると期待されています。
Source
Image Credit: NASA, ESA, Yu-Ching Chen (UIUC), Hsiang-Chih Hwang (IAS), Nadia Zakamska (JHU), Yue Shen (UIUC), Joseph Olmsted (STScI) STScI - Hubble Unexpectedly Finds Double Quasar in Distant Universe NOIRLab - Dual Quasars Blaze Bright at the Center of Merging Galaxies Illinois News Bureau - Hubble unexpectedly finds double quasar in distant universe Yu-Ching Chen et al. - A close quasar pair in a disk–disk galaxy merger at z = 2.17 (Nature, arXiv)文/sorae編集部