よく知られているように、地球には磁場が存在しており、コンパス(方位磁針)が北や南を指すように動かしたり、太陽風を逸らしたりする現象が知られています。太陽系の中では、磁場は地球以外にも多くの惑星で見つかっており、大きな惑星であるほど磁場も強力になる傾向があります。
太陽以外の天体の周りを公転する「太陽系外惑星」にも磁場が存在すると考えられますが、その測定は困難です。遠く離れた惑星の磁場を直接測定する方法はないので、間接的な手法が頼りになります。
特に注目されているのは、強力な電波が放出される、プラズマのような電気を帯びた物質と磁場の相互作用です。この手法を使うことで、巨大ガス惑星とみられるいくつかの系外惑星では磁場の存在が確認されています。しかし、巨大ガス惑星よりも磁場が弱いと予測される地球型惑星での発見例はありませんでした。いくつかの候補はあるものの、有力と言えるほどの発見ではありません。
コロラド大学ボルダー校のJ. Sebastian Pineda氏とバックネル大学のJackie Villadsen氏の研究チームは、これまでよりも有力な候補となり得る地球型惑星の磁場の発見を報告しました。それは地球から約12光年離れた位置にあるM型の恒星「くじら座YZ星」を公転する系外惑星の磁場で、カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群の観測記録から判明しました。
先述の通り、プラズマと惑星磁場の相互作用は強力な電波を放出する可能性があります。恒星から放出されるプラズマの密度には偏りがあるため、公転する惑星がプラズマの密度が高い場所を通過した時に、惑星磁場との相互作用で電波が発生します。つまり、惑星の公転周期とほぼ同じ周期で放出された電波が検出されれば、それは惑星磁場の兆候である可能性があります。くじら座YZ星ではこれまでに3つの惑星が見つかっているので、電波が放出される周期と公転周期が一致する惑星を探すことで、どの惑星に磁場があるのかを示すことができます。
研究チームがデータを調べたところ、2019年から2020年にかけての5回の観測期間中に、3GHzの波長で強力な電波が放出された時期と、ほとんど放出されなかった時期がありました。3GHzという波長は、プラズマと惑星磁場との相互作用で放出される電波の典型的な波長域です。
電波放出の有無と惑星の公転周期を比較したところ、最も内側を公転する「くじら座YZ星b」の公転周期とよく一致することが分かりました。くじら座YZ星bは質量が地球の0.7倍という小ぶりな地球型惑星だと推定されており、公転周期は約2日と短く、恒星であるくじら座YZ星の近くを公転しています。恒星から放たれたプラズマは距離が近いほど濃く、遠くなるほど薄くなるため、恒星の近くを公転しているくじら座YZ星bとの相互作用で強力な電波が放出されることと矛盾しません。以上のことから、くじら座YZ星bは磁場を持つことが示された初めての地球型の系外惑星となる可能性があります。
ただし、現在のところはまだ「磁場を発見した」と断言することはできません。例えば、恒星のくじら座YZ星の固有磁場は弱いと推定されるため、普段ならば惑星磁場の観測に影響しません。しかし、くじら座YZ星のようなM型星では恒星フレアのような強力な電波放出が稀に起こると予想されます。条件次第ではこのような活動にも周期のようなものが現れるため、くじら座YZ星bの公転周期とたまたま一致した可能性が排除できません。これらの可能性を除外する為には、くじら座YZ星の継続的な観測が必要になるでしょう。
Source
J. Sebastian Pineda & Jackie Villadsen. “Coherent radio bursts from known M-dwarf planet-host YZ Ceti”. (Nature Astronomy) Jason Stoughton. “Do Earth-like exoplanets have magnetic fields? Far-off radio signal is promising sign”. (National Science Foundation)文/彩恵りり