優れた能力を持つ多数の応募者のなかから選抜され、厳しい訓練を経た後に、地球の上空400kmを周回する国際宇宙ステーション(ISS)でミッションに従事し、近い将来は月面での探査活動も予定されている宇宙飛行士たち。
宇宙飛行士がミッション中に体験する無重力環境や閉鎖空間での生活には私達の暮らしとは大きく異なる部分もありますが、実は、宇宙飛行士の困りごとと私達の生活には、密接な繋がりがあります。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2020年、宇宙飛行士の山崎直子さん、油井亀美也さん、大西卓也さんらが参加した座談会を行いました。
座談会のテーマは「宇宙での生活課題」です。座談会の目的は、宇宙などの過酷な環境が人間の生活に及ぼす影響について調べることです。
話題に上った生活課題は「メンタルヘルス」「歯磨き」「選択」「着替え」など多岐にわたりました。JAXAは座談会で話し合われた“宇宙での困りごと”を、最終的に「行動系」「身体系」「住環境系」の3つに分類。この結果をもとに課題解決のための公募を複数行っています。公募のタイトルは「宇宙生活/地上生活に共通する課題を解決する生活用品アイデア募集」です。
公募への参加には「宇宙ビジネスへの参加」「実証実験」「広告・宣伝」といった数々のメリットがあります。「JAXAとのパートナーシップ締結」「各業界のプロからの支援」などの利点も後押しし、多くの企業から課題解決へのアイデアが94件も寄せられました。
JAXAでは寄せられたアイデアをもとに「THINK SPACE LIFE」プラットフォームを始動。これは宇宙生活の課題から宇宙と地上の課題を改善するためのビジネス共創プラットフォームです。このプラットフォームでの研究・開発の結果、宇宙の困りごとを解決する新たな生活用品が生み出されました。
一例をあげると、簡単にすすげる歯みがき剤、口腔ケアのジェル、水のいらないシャンプー、身体の洗浄シート、宇宙船内用の衣類、宇宙用の靴下といった製品です。
このうち、すでに2種類の宇宙船内用衣類はISSに搭載され、宇宙飛行士たちの生活改善に役立っています。
JAXA生活用品担当者からの「地上へのどんな課題解決・ビジネスチャンスにつながりますか」という質問に対し、参加企業の担当者からは、医療、介護、日常生活への活用という声が寄せられました。また、10年後や20年後を見据えた製品開発をすることができた、という感想も寄せられています。
これまで宇宙空間では、宇宙飛行士たちによるさまざまな実験や開発が行われています。たとえば、ISSの日本実験棟「きぼう」のミッションは「企業や大学、研究機関が抱えている課題の解決や世界最先端の研究へのチャレンジを経て、事業や研究の拡大に役立てること」が目的です。
しかし、宇宙飛行士たちの困りごとを改善することは、逆に私たちの生活改善にもつながります。今回のJAXAの取り組みはそのことを明確にしてくれました。
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Image Credit: JAXAアイキャッチ: Bing image creator JAXA(PDF) - Space Life Story Book JAXA - 宇宙生活/地上生活に共通する課題テーマ・解決策の募集 JAXA - THINK SPACE LIFE JAXA - 宇宙生活/地上生活に共通する課題テーマ・解決策の結果報告について JAXA - 宇宙での生活用品 JAXA - 「きぼう」日本実験棟/国際宇宙ステーション(ISS)
文/sorae編集部