こちらは約25光年先にある「みなみのうお座」の一等星「フォーマルハウト(Fomalhaut)」の周囲に広がるデブリ円盤(残骸円盤)の様子です。「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡の「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータ(波長25.5μmのフィルターを使用)をもとに作成されました。赤外線の波長で観測が行われたため、人の目で見た場合とは見え方が異なります。
フォーマルハウトは誕生から4億年ほどが経ったと考えられている比較的若い星です。その周囲を取り囲むデブリ円盤は1983年に発見されて以来、40年間に渡って研究され続けています。
2022年10月21日に実施された今回の観測でウェッブ宇宙望遠鏡は、フォーマルハウトのデブリ円盤に2つのギャップ(すき間)が生じて入れ子構造になっている様子を捉えました。観測を行ったアリゾナ大学のAndrás Gáspárさんを筆頭とする研究チームの論文は、2023年5月8日付で「Nature Astronomy」に掲載されています。
ウェッブ宇宙望遠鏡や「ハッブル」宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、一番外側にあるリングの半径は約120天文単位(※)で、海王星の公転軌道の外側にあるエッジワース・カイパーベルトの約2倍のスケールで広がっているといいます。この外側のリングはハッブル宇宙望遠鏡や「アルマ望遠鏡(ALMA)」による過去の観測でも捉えられたことがありますが、ギャップに隔てられた中間と内側のリングが確認されたのは今回が初めてです。
※…1天文単位(au)=約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来。120天文単位は太陽から海王星までの距離(約30天文単位)の4倍に相当する。
フォーマルハウトのデブリ円盤に生じた2つのギャップと複雑なリング構造は、まだ見つかっていない惑星の影響を示している可能性があるといいます。太陽系では木星が小惑星帯に、海王星がエッジワース・カイパーベルトに重力を介して影響を及ぼしているように、フォーマルハウトにもリング構造を保たせている未知の太陽系外惑星が存在するのではないかというわけです。
また、今回の観測では研究チームから「大きな塵の雲(great dust cloud)」と呼ばれている塊状の特徴が外側のリングで見つかりました。この雲は外側のリングで起きた小天体どうしの衝突によって形成された可能性が指摘されています。
実は以前、フォーマルハウトには「フォーマルハウトb」という系外惑星が存在すると考えられていたことがあります。フォーマルハウトbはハッブル宇宙望遠鏡で2004年と2006年に取得されたデータをもとに2008年に発見が報告されたものの、2014年までに見えなくなってしまいました。
2020年にはGáspárさん率いる研究チームが「フォーマルハウトbは直径200km程度の小天体どうしが衝突したことで形成された塵の雲だった」、つまり系外惑星ではなかったとする研究成果を発表しています。今回見つかった“大きな塵の雲”も、同じような衝突で形成されたのではないかと考えられています。
関連:系外惑星「フォーマルハウトb」は存在しておらず、塵の雲だった?(2020年4月22日)
ウェッブ宇宙望遠鏡で取得されたフォーマルハウトのデブリ円盤の画像はSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)から2023年5月8日付で公開されています。
Source
Image Credit: NASA, ESA, CSA, A. Pagan (STScI), A. Gáspár (University of Arizona) NASA - Webb Looks for Fomalhaut’s Asteroid Belt and Finds Much More ESA/Webb - Webb looks for Fomalhaut’s asteroid belt and finds much more STScI - Webb Looks for Fomalhaut's Asteroid Belt and Finds Much More University of Arizona - Nearby planetary system seen in breathtaking detail Gáspár et al. - Spatially resolved imaging of the inner Fomalhaut disk using JWST/MIRI (Nature Astronomy, arXiv)文/sorae編集部