アメリカ航空宇宙局(NASA)は5月19日付で、有人月面探査計画「アルテミス」で使用される着陸船「有人着陸システム(HLS:Human Landing System)」の開発を担当する2番目の企業としてブルー・オリジンを選定したと発表しました。契約額は34億ドルです。【2023年5月23日13時】
NASAのアルテミス計画は月面での持続的な探査活動や将来の有人火星探査を見据えた取り組みで、1960~70年代に実施された「アポロ計画」以来となる有人月面探査が予定されています。アルテミス計画における初の月面着陸は2025年に予定されている「アルテミス3」ミッションで、2名の宇宙飛行士が月の南極周辺に降り立ち、月に埋蔵されているとみられる水の氷の探査などを行います。
アルテミス3に先立ち、NASAはアルテミス計画で使用する新型宇宙船「オリオン(Orion、オライオン)」の無人飛行試験にあたる「アルテミス1」ミッションと、有人飛行試験にあたるアルテミス2ミッションを計画。アルテミス1は2022年11月から12月にかけて実施され、成功裏に完了しました。アルテミス2は2024年の実施が予定されており、2023年4月には参加する4名のクルーが発表されています。
関連
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・NASA新型宇宙船オリオンが無人飛行試験を終えて地球に帰還 アルテミス1ミッション完了(2022年12月12日)
今回締結されたのは、2029年に実施が予定されているアルテミス計画5番目のミッション「アルテミス5」で使用されるHLSの設計・開発・試験などに関する契約です。契約には“本番”となるアルテミス5の前に実施される1回の無人試験飛行も含まれています。
ブルー・オリジンが開発する着陸船の名称は「ブルー・ムーン(Blue Moon)」です。海外メディアのSpaceNewsによれば、ブルー・ムーンの全長は16mで、ブルー・オリジンが開発中の大型ロケット「ニュー・グレン」のフェアリング(直径7m)に収まるように設計されています。推進剤を充填した時の重量は45トン以上になります。
ブルー・ムーンの開発にはロッキード・マーティン、ドレイパー、ボーイング、アストロボティックといった複数の企業がパートナーとして参加しており、ブルー・オリジンは「ナショナルチーム」と呼んでいます。前述の通り契約額は34億ドルですが、ブルー・オリジンはこの金額を大幅に上回る投資を計画していると伝えられています。
NASAによると、アルテミス5のクルー4名はまず「オリオン」宇宙船で地球から月周辺へ飛行し、月周回有人拠点「ゲートウェイ」にドッキングします。ゲートウェイではクルーのうち2名がブルー・ムーンに移乗し、月の南極域に着陸。1週間ほどかけて月面探査を行った後にゲートウェイへ戻り、4人揃ってオリオンで地球に帰還します。
またブルー・オリジンによると、ブルー・ムーンの推進剤には液体酸素と液体水素の組み合わせが使用されます。同社はNASAとの契約の下で液体酸素・液体水素の貯蔵に関する技術の向上を目指しており、将来的には月で採掘した氷から推進剤を精製することも視野に入れているということです。液体酸素・液体水素はNASAの「SLS(スペース・ローンチ・システム)」や日本の「H3」をはじめロケットの推進剤として広く利用されていますが、極低温を保つ必要があり、長期間のミッションでは一部が気化して失われることが問題になることから、従来の月着陸船では液体酸素・液体水素と比べて性能は低いものの貯蔵しやすい推進剤(ヒドラジンと四酸化二窒素の組み合わせなど)が使用されてきました。
なお、アルテミス3とその次の「アルテミス4」ミッションで使用されるHLSを開発する企業にはスペースXがすでに選定されています。スペースXは開発中の大型宇宙船「スターシップ(Starship)」のHLS仕様を製造する予定です。
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Image Credit: Blue Origin NASA - NASA Selects Blue Origin as Second Artemis Lunar Lander Provider Blue Origin - NASA Selects Blue Origin for Astronaut Mission to the Moon SpaceNews - NASA selects Blue Origin to develop second Artemis lunar lander文/sorae編集部