突然ですが皆さん、揚げ物はお好きですか? 天ぷらや鶏の唐揚げをはじめ、白身魚やエビなど魚介のフライ、カツを乗せたカツカレーやカツ丼、ポテトチップスやサーターアンダギーといった揚げ菓子が思い浮かびますが、なかでもフライドポテトは世界的に食されている揚げ物のひとつと言えます。
しかし今のところ、宇宙飛行士がミッション中に出来立てのフライドポテトを食べることはできません。たとえば現在、国際宇宙ステーション(ISS)で宇宙食の調理に利用できるのはプレートヒーター(約80℃)とお湯または常温の水だけなので(JAXAの宇宙日本食認証基準Q&Aより)、ISSに運ばれる宇宙食は限られた調理方法やISSの環境を考慮して開発・製造されています。
欧州宇宙機関(ESA)によると、複雑な物理学と化学が関わる揚げ物の調理を微小重力(無重力)環境でも行えるかどうか、これまではっきりとはわからなかったといいます。鍵となるのは、揚げ物を調理する時に生じる泡です。高温の油に食材を入れると、内部の水分が沸騰して泡が生じます。地上で揚げ物を調理する時、泡は食材の表面を離れて浮かび上がりますが、重力の影響がほとんどない環境では食材の表面が泡に覆われて油と接触しなくなり、うまく火が通らない可能性があると考えられていました。
テッサロニキ・アリストテレス大学のJohn Lioumbasさんを筆頭とする研究チームは、微小重力環境でジャガイモを揚げられるかどうかを確かめるための実験を行いました。その結果、懸念されていた泡はジャガイモの表面から簡単に離れ、高温の油がジャガイモと接触し続けることがわかったといいます。簡単に言えば、研究チームは実験を通して「微小重力環境でも揚げ物を調理できる」可能性を示したことになります。
研究チームが利用したのは、ESAがNovespace社のエアバスA310を使って定期的に実施している放物線飛行(パラボリックフライト)でした。上昇させた機体を自由落下状態で下降させる放物線飛行では、数十秒間という短時間ながらも微小重力状態を作り出すことができます(ESAの放物線飛行では約20秒間)。
【▲ ESAが実施している放物線飛行の紹介動画】
(Credit: ESA)
研究チームは密閉状態でジャガイモを揚げられる自動化された実験装置を開発。2017年5月に実施された第66次放物線飛行キャンペーンに参加し、油とジャガイモ内部(3段階の深さ)の温度を測定しつつ、泡の成長速度・大きさ・分布・ジャガイモから離れる速度を調べるための高速・高解像度撮影を行いました。微小重力環境でも泡がジャガイモから離れるメカニズムには、水が沸騰した時の気孔内部で瞬間的に生じる過度の圧力が関わっているのではないかと考えられています。
今回の研究成果は宇宙飛行士の食生活を直ちに変化させるものではなく、さらなる研究も必要とされていますが、有人火星探査のような将来の長期間に渡るミッションでは揚げ物も食べられるようになるかもしれません。研究チームの成果をまとめた論文は2023年2月にFood Research Internationalへ掲載されており、ESAが2023年6月2日付で紹介しています。
【▲ 放物線飛行での揚げ物の実験中に油の中で生じた泡の様子(動画)】
(Credit: ESA)
Source
Image Credit: Aristotle University of Thessaloniki, ESA ESA - Flying frying in microgravity Aristotle University of Thessaloniki - Επιστημονική ομάδα του ΑΠΘ μελέτησε τη σταθερότητα γαλακτωμάτων σε συνθήκες έλλειψης βαρύτητας Lioumbas et al. - Is frying possible in space? (Food Research International) JAXA 有人宇宙技術部門 - 宇宙日本食と生鮮食品文/sorae編集部