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「太陽系外惑星命名キャンペーン2022」で選ばれた名称発表 20星系中7星系は先住民族の言語由来

sorae.jp 2023年6月12日 21時0分

太陽以外の天体の周りを公転する「太陽系外惑星」は、原則として衛星や小惑星のような命名規則や手続きは存在しません。しかし、国際的に統一された天体の名称を管轄する「国際天文学連合(IAU)」は数年に一度、太陽系外惑星とその主星の名称を一般に公募する「太陽系外惑星命名キャンペーン」を行っています。2015年と2019年に続き、2022年には3回目となる「太陽系外惑星命名キャンペーン2022(NameExoWorlds 2022)」が開催されました。

【▲ 図1: 太陽系外惑星命名キャンペーン2022のメインビジュアル(Credit: IAU OAO/NARIT)】

今回のキャンペーン開催は、国際連合が定める「持続可能な発展のための国際基礎科学年」の参加機関の1つにIAUが含まれていることを理由としています。この企画にはIAUの他、日本の国立天文台(NAOJ)とタイ国立天文学研究所(NARIT)もパートナーとして参加しています。

「持続可能な発展のための国際基礎科学年」は、2021年12月2日に国際連合において決議されたものであり、2022年6月30日からの1年間を「国際基礎科学年」とすると定めたものです。これは元々、2015年に決議・設定された2030アジェンダと17の持続可能な開発目標 (SDGs) に基づくものであり、「人類にとって高い価値を有する、基礎科学に対する世界的な認識を高め、教育を強化する」ことを目標の1つに掲げています。

今回の太陽系外惑星命名キャンペーンは、この国際基礎科学年を基盤としています。20星系の惑星と主星に対して命名枠が設けられており、1つの国または地域から提案された1組の名称が選考の上で割り当てられました。

これらの惑星系はいずれも地球に近い距離にあり、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」がすでに観測を開始したか、これから観測する予定の天体も含まれています。提案する惑星と主星の名称には共通のテーマが必要です。また、実在した人物や国・都市にちなんだ名称は提案できないなど、今回は過去のキャンペーンからルールが細かく変更されています。

【▲ 図2: 今回命名されたものの一例。右下に細かい字で書かれている通り、多数のメンバーが名を連ねるチームが提案した名称もある(Credit: IAU / NAOJ / NARIT)】

名称を提案できたのは最低2人以上のチームであり、天文学者、アマチュア天文家、天文愛好者、教員、学生や生徒といった、多様な構成員であることが望まれました。さらに、天文学を市民に普及するイベントを企画・実施し、そのレポートを名称提案時に提出することも求められました。

名称の応募は2022年8月8日にアナウンスされ、チームの国または地域における12月11日まで募集されました。当初は2023年3月に結果が発表される予定でしたが、名称の募集期間が11月11日から1か月間延長された影響か、実際の公表は3か月ほど遅れた6月8日にずれ込みました。

キャンペーンには最終的に91か国の603チームから応募があり、命名に直接関わったチームメンバーだけでも8800人を超え、イベント参加者を含めれば述べ1200万人以上が関わったとされています。20星系のうち7星系は先住民族の言語から選定されましたが、これは2019年に国際先住民族言語年が制定されたことを受けてのものです。

以下、20の太陽系外惑星とその主星につけられた名称、およびその由来を解説していきます。なお、カタカナ表記は筆者によるものです。可能な限りネイティブの発音に近付くよう考慮しましたが、一部不正確である可能性もあります。

国・地域 / 言語: ケニア共和国 / マー語 (マーサイ語・マサイ語)
テーマ: ケニアとタンザニアに住むマーサイ族 (マサイ族) 、サンブル族、ンガサ族、イル・チャムス族などのマサイ文化圏の言葉で、天体の様相を表現した言葉。

星座: へびつかい座 主星のカタログ名 / 分類: グリーゼ1214 (GJ 1214) / M型赤色矮星 主星の名称: Orkaria (オルカリア) 主星の名称の由来: 文化的な儀式で若いマーサイの戦士が身に着ける赤土。グリーゼ1214の色を暗示させる。 惑星のカタログ名: グリーゼ1214b (GJ 1214 b) 惑星の名称: Enaiposha (エナイポシャ) 惑星名称の由来: 湖や海など、大きな水域を表す言葉。大量の水の波乱に満ちた性質に対する畏敬の念を表す言葉でもある。

国・地域 / 言語: タイ王国 / タイ語
テーマ: タイ語で宝石に関連する言葉。

星座: かに座 主星のカタログ名 / 分類: グリーゼ3470 (GJ 3470) / M型赤色矮星 主星の名称: Kaewkosin (แก้วโกสินทร์ / キャレコシン) 主星の名称の由来: ヒンドゥー教の神インドラの結晶。星が宝石であるという古代の信仰の暗示。 惑星のカタログ名: グリーゼ3470b (GJ 3470 b) 惑星の名称: Phailinsiam (ไพลินสยาม / ハイリンシアン) 惑星の名称の由来: シャムネコの瞳の色 (サファイアブルー) を表す青。グリーゼ3470bの大気にはレイリー散乱が観測され、青い空が連想されたことから。 (著者注: 地球の空が青く見えるのとほぼ同じ原理)

国・地域 / 言語: チリ共和国 / スペイン語
テーマ: チリ固有の花の名前。名前のついた天体の特性を連想させる特徴を持つ。

星座: ほ座 主星のカタログ名 / 分類: グリーゼ367 (GJ 367) / M型赤色矮星 主星の名称: Añañuca (アニャニュカ) 主星の名称の由来: コキンボ州からマウレ州にかけて咲く赤い野草の名前 (学名Phycella cyrtanthoides) 。グリーゼ367の色を暗示している。 惑星のカタログ名: グリーゼ 367b (GJ 367 b) 惑星の名称: Tahay (タハイ) 惑星の名称の由来: チリ中部の固有種で、1年のうち7時間から8時間しか咲かない小さな花 (学名Calydorea xiphioides) 。グリーゼ367bの公転周期が7.7時間であることを暗示。

国・地域 / 言語: アメリカ合衆国 / チェロキー語
テーマ: チェロキー(ネイティブ・アメリカンの部族)における鷲の羽の伝説と、天体にまつわる用語。

星座: しし座 主星カタログ名 / 分類: グリーゼ436 (GJ 436) /M型赤色矮星 主星の名称: Noquisi (ᏃᏈᏏ / ノークィーシー) 主星の名称の由来: チェロキー語で「星」。 惑星のカタログ名: グリーゼ436b (GJ 436 b) 惑星の名称: Awohali (ᎠᏬᎭᎵ / アーウォハリー) 惑星の名称の由来: 「鷲」を意味する言葉の1つ。チェロキーの以下の伝説に基づく: 「戦士のための祈りを届けるために1羽の鷲が太陽まで飛んでいった。祈りが伝えられる際、太陽は鷲の尾羽に口づけし、民族と偉大な精神との繋がりの象徴として、羽を戦士に返した」。グリーゼ436bからは、 (恒星からの放射で) 蒸発し流出した大気が彗星のような尾となっており、鷲の尾羽はそれを暗示させる。

国・地域 / 言語: スペイン王国 / バスク語
テーマ: 火、熱、情熱に関連するバスク語の言葉。元の名前は、情熱や熱意を意味する俗称「su eta gar (ス・エタ・ガ / 火と炎)」に由来する。

星座: おとめ座 主星のカタログ名 / 分類: グリーゼ486 (GJ 486) / M型赤色矮星 主星の名称: Gar (ガ) 主星の名称の由来: バスク語で「炎」。 惑星のカタログ名: グリーゼ486b (GJ 486 b) 惑星の名称: Su (ス) 惑星の名称の由来: バスク語で「火」。危険と保護の二面性を意味する。

国・地域 / 言語: ハンガリー / ハンガリー語
テーマ: ハンガリーの犬と犬種にまつわるハンガリー語の言葉。

星座: りょうけん座 主星のカタログ名 / 分類: HAT-P-12 / K型主系列星 主星の名称: Komondor (コモンドール) 主星の名称の由来: ハンガリー原産の白い大型な護畜用犬種。 惑星のカタログ名: HAT-P-12 b 惑星の名称: Puli (プーリー) 惑星の名称の由来: ハンガリー原産の牧畜犬。黒いボサボサの毛並みで知られている。

国・地域 / 言語: プエルトリコ自治連邦区 / タイノ語
テーマ: カリブ海の先住民族タイノ族の創造神話や嵐にまつわる神々の名前。

星座: おとめ座 主星のカタログ名 / 分類: HAT-P-26 / K型主系列星 主星の名称: Guahayona (グアヨナ) 主星の名称の由来: タイノ神話における「自らの光で輝く者」。金星のこと。 惑星のカタログ名: HAT-P-26 b 惑星の名称: Guataubá (グアタウバ) 惑星の名称の由来: タイノ神話における雲、稲妻、雷をもたらし、嵐の到来を告げる存在。

国・地域 / 言語: チュニジア共和国 / アラビア語
テーマ: チュニジアのユネスコ生物圏保護区に関連する地名と種。

星座: みずがめ座 主星のカタログ名 / 分類: HATS-72 / K型主系列星 主星の名称: Zembra (زمبرة / ザンバラ) 主星の名称の由来: チュニス湾に浮かぶ島。野生動物と鳥類の生息地で、ユネスコのザンバラ・ザンブリタ群島生物圏保護区を構成する地域の1つ。 惑星のカタログ名: HATS-72 b 惑星の名称: Zembretta (زمبرتا / ザンブリタ) 惑星の名称の由来: チュニス湾に浮かぶ小島で、ユネスコのザンバラ・ザンブリタ群島生物圏保護区を構成する地域の1つ。

国・地域 / 言語: ギリシャ共和国 / ギリシャ語
テーマ: ギリシャ語、特にホメロスの『オデュッセイア』や、ギリシャの詩人オデッセアス・エリティス (1911-1996 / 1979年ノーベル文学賞受賞) の詩『価値がある (To Axion Esti)』 (1959) に登場する風にまつわる名前。

星座: りゅうこつ座 主星のカタログ名 / 分類: HD 95086 / A型早期型星 主星の名称: Aiolos (Αίολος / アイオロス) 主星の名称の由来: ギリシャ神話における風の番人。ホメロスの『オデュッセイア』では、西風の神ゼファーを除く全ての風の神を牛革の容器に捕らえた。ゼファーはユリシーズの帆船が故郷イサカに帰るのを助けた。 (著者注: ユリシーズは『オデュッセイア』の主人公、オデュッセウスの英語表記読み) 惑星のカタログ名: HD 95086 b 惑星の名称: Levantes (Λεβάντες / レヴァンテス) 惑星の名称の由来: 現代ギリシャ語で地中海東部の沿岸地方を指す地域名。前述の『価値がある』にこの名称が登場する。

国・地域 / 言語: メキシコ合衆国 / ソケ語
テーマ: メキシコの先住民族ソケ族の言葉で宇宙観、調和、対立、均衡、生命に関連するもの。

星座: ケンタウルス座 主星のカタログ名 / 分類: HIP 65426 / A型早期型星 主星の名称: Matza (マトゥザ) 主星の名称の由来: ソケ語で「空に輝く星」もしくは「内なる輝きを持つ者」。 惑星のカタログ名: HIP 65426 b 惑星の名称: Najsakopajk (ナユサ・コパユク) 惑星名称の由来: ソケ語で「母なる大地」。

国・地域 / 言語: 中華人民共和国 (南京市) / 中国語 (簡体字)
テーマ: 古代中国の神話に登場する鳥。

星座: きょしちょう座 主星のカタログ名 / 分類: L 168-9 / M型赤色矮星 主星の名称: Danfeng (丹凤 / ダンフォン) 主星の名称の由来: 古代中国の伝説に登場する、幸運を象徴する神聖な鳥。赤い鳳凰。 惑星のカタログ名: L 168-9 b 惑星の名称: Qingluan (青鸾 / チンルワン) 惑星の名称の由来: 古代中国の書物『山海経』に登場する神聖な青い鳥。妖精の乗り物でもあり、愛の声の使者でもある。

国・地域 / 言語: コスタリカ共和国 / ブリブリ語
テーマ: コスタリカのブリブリ族の言語による、文化的に重要な動物の名前。

星座: インディアン座 主星のカタログ名 / 分類: LHS 3844 / M型赤色矮星 主星の名称: Batsũ̀ (バツー) 主星の名称の由来: 直訳は「ハチドリ」。文化の英雄であり、地球と人類の創造主であるシボ (Sibö̀) の伝達人でもある。 惑星のカタログ名: LHS 3844 b 惑星の名称: Kua'kua (クアクア) 惑星の名称の由来: ブリブリ語で「蝶」の意味。転じて女性を指す言葉として伝統的に使われる。いくつかの種の蝶の出現は、雨季の到来の間接的な指標として使われる。

国・地域 / 言語: コロンビア共和国 / ウワ語 (トゥネボ語)
テーマ: コロンビアの先住民族ウワ族の言語における世界観や宇宙観に関連する用語。

星座: ちょうこくしつ座 主星のカタログ名 / 分類: LTT 9779 / G型主系列星 主星の名称: Uúba (ウウバ) 主星の名称の由来: ウワ語で「星」「種」もしくは「目」の意味。 惑星のカタログ名: LTT 9779 b 惑星の名称: Cuancoá (クアンコア) 惑星の名称の由来: ウワ語で「日の出前に沈む朝の星」を指す言葉。

国・地域 / 言語: バーレーン王国 / シュメール語とギリシャ語
テーマ: バーレーン群島に関連する古代文明や地名の名称。

星座: とも座 主星のカタログ名 / 分類: WASP-121 / F型主系列星 主星の名称: Dilmun (ディルムン) 主星の名称の由来: バーレーン群島とアラビア半島東部にまたがる地域にあった古代文明の所在地の名前。 惑星のカタログ名: WASP-121 b 惑星の名称: Tylos (Τύλος / ティロス) 惑星の名称の由来: バーレーン島の古代ギリシャ語名。 (著者注: バーレーン島はバーレーン王国の主要な島)

国・地域 / 言語: スペイン王国 / カタルーニャ語
テーマ: マヨルカ島の作家アントニ・マリア・アルクベー・イ・スレダ (1862-1932) の『ジョルディ・デス・ラコによるマヨルカ・ロンダイの集い (Aplec de Rondaies Mallorquines d'en Jordi d'es Racó)』に記された、マヨルカ島民話に登場するキャラクター。

星座: うみへび座 主星のカタログ名 / 分類: WASP-166 / F型主系列星 主星の名称: Filetdor (フィレ・ドール) 主星の名称の由来: マヨルカ島の民話『ナ・フィレ・ドール (Na Filet d'Or)』の主人公である黄金の海蛇。 惑星のカタログ名: WASP-166 b 惑星の名称: Catalineta (カタリネータ) 惑星名称の由来: 『ナ・フィレ・ドール』のヒロインである少女の名前。

国・地域 / 言語: オーストラリア連邦 / 英語
テーマ: 文化的意義のあるオーストラリア原産の植物で、その特徴が天体の特性を連想させるものの名前。

星座: ほ座 主星のカタログ名 / 分類: WASP-19 / G型主系列星 主星の名称: Wattle (ワトル) 主星の名称の由来: 約1000種の低木・樹木からなる属。ゴールデン・ワトルはオーストラリアの国花であり、WASP-19の色を暗示させる。 (著者注: ワトルの和名はアカシア属) 惑星のカタログ名: WASP-19 b 惑星の名称: Banksia (バンクシア) 惑星の名称の由来: オーストラリアの野草・園芸植物の1属。先住民族アボリジニやトレス海峡諸島民は、バンクシアを薬や水を濾す道具として、また甘い飲み物を作るための蜜源として利用してきた。スカーレット・バンクシア (学名Banksia coccinea) の赤い花や、乾燥したバンクシアの花冠は、先住民の火種として使われた。WASP-19bの熱い昼の面の輝きを連想させる。 (著者注: WASP-19bの自転は潮汐固定されており、永久の昼の面と夜の面に分かれている)

国・地域 / 言語: ルーマニア / ギリシャ語
テーマ: 古代の天文機器、特に航海用機器の名称。

星座: ろくぶんぎ座 主星のカタログ名 / 分類: WASP-43 / K型主系列星 主星の名称: Gnomon (γνώμων / ノーモン) 主星の名称の由来: 日時計のような天文器具。 (著者注: 和名はグノモンとも) 惑星のカタログ名: WASP-43 b 惑星の名称: Astrolábos (ἀστρολάβος / アストロラーボス) 惑星の名称の由来: アストロラーベのギリシャ語名。高度の測定、星や惑星の識別、緯度の決定などに使われた古代の天文機器。

国・地域 / 言語: クロアチア共和国 / クロアチア語
テーマ: クロアチアの童話作家イヴァーナ・ブルリッチ=マジュラニッチ (1874-1938) による童話『レゴチ (Regoč)』の登場人物。

星座: はと座 主星のカタログ名 / 分類: WASP-63 / G型主系列星 主星の名称: Kosjenka (コシェンカ) 主星の名称の由来: 童話『レゴチ』の主人公。 惑星のカタログ名: WASP-63 b 惑星の名称: Regoč (レゴチ) 惑星の名称の由来: 童話『レゴチ』に登場する巨人の主人公。

国・地域 / 言語: カメルーン共和国 / ドゥアラ語
テーマ: カメルーンにあるギニア湾に注ぐ川とその支流。

星座: みずがめ座 主星のカタログ名 / 分類: WASP-69 / K型主系列星 主星の名称: Wouri (ウーリ) 主星の名称の由来: カメルーンの主要河川。現在の国名であるカメルーンは、15世紀のポルトガル人航海士フェルナン・ド・ポーが、ウーリ川にエビが多いことに着目して「エビの川 (Rio dos Camerões)」と呼んだことに由来する。 惑星のカタログ名: WASP-69 b 惑星の名称: Makombé (マコンベ) 惑星の名称の由来: ウーリ川に注ぐ支流。

国・地域 / 言語: 大韓民国 / 朝鮮語 (韓国語)
テーマ: 空、海、環境を連想させる韓国語。

星座: とびうお座 主星のカタログ名 / 分類: WD 0806-661 / 白色矮星 主星の名称: Maru (마루 / マル) 主星の名称の由来: 「空」を連想させる語。 惑星のカタログ名: WD 0806-661 b 惑星の名称: Ahra (아라 / アラ) 惑星の名称の由来: 「海」を連想させる語。

 

Source

“2022 Approved Names”. (NameExoWorlds) “太陽系外惑星命名キャンペーン2022”. (国立天文台)

文/彩恵りり

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