国立天文台(NAOJ)のDoris Arzoumanianさんを筆頭とする研究チームは、形成中の太陽系を超新星爆発の衝撃波から守ったのは、太陽系を生み出した星間ガスの集まりである「分子雲フィラメント」そのものだった可能性を示す研究成果を発表しました。
地球に落下した隕石に含まれている元素の同位体組成をもとに、誕生から約46億年が経ったとされる太陽系が形成されつつある頃、その形成現場には近くで発生した超新星爆発に由来する物質(アルミニウムの放射性同位体であるアルミニウム26など)が降り注いだと考えられています。
その一方で、超新星の衝撃波は惑星系の形成を妨げ、破壊してしまう可能性もあるといいます。国立天文台によれば、太陽系が超新星由来の物質を獲得しつつ爆発の衝撃波からは生き延びた、という矛盾した状況を解決する定説はまだありませんでした。
研究チームは今回、太陽のような小質量星と超新星爆発を起こす大質量星が形成される場所の違いに着目して、若き太陽系に対する衝撃波の影響を調べました。小質量星は星間ガスが紐状に集まった分子雲フィラメントに沿って形成され、大質量星は分子雲フィラメントどうしが重なる場所(ハブ)で形成されるといいます。
分析の結果、分子雲フィラメントは大質量星の星風や超新星爆発の衝撃波から形成中の太陽系を守る“緩衝材”として働く可能性が示されました。太陽系を形成した分子雲フィラメントが付近のフィラメントどうしの重なりで発生した超新星爆発の衝撃波によって破壊されるには少なくとも30万年を要し、フィラメントが衝撃波を吸収したことで形成中の太陽系にはほとんど影響が及ばなかったと考えられています。また、超新星由来の物質は最初に分子雲フィラメントに降り注ぎ、その後に太陽系の形成現場へと間接的に運ばれたとみられています。
今回の研究で推測された分子雲フィラメントと太陽系の関係性について研究チームは、恒星系の形成・進化・特性を理解する上で幾つかの重要な意味を持つ可能性があり、検証には専用の磁気流体力学シミュレーションが必要だと述べています。研究チームの成果をまとめた論文は2023年4月25日付でAstrophysical Journal Lettersに掲載されています。
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Image Credit: 国立天文台 NAOJ - 形成中の太陽系を超新星爆発から守ったもの NAOJ - Molecular Filament Shielded Young Solar System from Supernova Arzoumanian et al. - Insights on the Sun Birth Environment in the Context of Star Cluster Formation in Hub–Filament Systems (Astrophysical Journal Letters)文/sorae編集部