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約3000年前の矢じりが隕鉄でできていたことが判明 ヨーロッパの青銅器時代の遺跡では3例目の発見

sorae.jp 2023年8月21日 11時17分

人類が本格的に鉄を扱う前の青銅器時代の遺跡でも、稀に鉄でできた製品が見つかることがあります。そのような製品は「隕鉄」を加工したものですが、その希少性から滅多に見つかることはありません。ベルン大学のBeda A. Hofmann氏などの研究チームは、スイスの遺跡で発掘された約3000年前の矢じり(鏃)が隕鉄で作られており、材料となったのは遠くバルト海沿岸から運ばれた隕鉄だったことを突き止めました。青銅器時代の隕鉄加工品が見つかったのはヨーロッパでは3例目、全世界でも22例目と極めて珍しい発見です。

【▲ 図1: 今回研究され、隕鉄でできていることが判明した矢じりの外観。横向きに見た時に観察できる層状構造は、人間の手で加工されたことを示す証拠である(Credit: Beda A. Hofmann, et al.)】

■古代の隕鉄加工品はとても珍しい

人類の歴史上、鉄が本格的に使用されるようになったのは紀元前1500年ごろからだと言われていますが、考古学的にはそれ以前の鉄製品が稀に発掘されることがあります。そのような鉄の正体は、宇宙から落下してきた「隕鉄」です。地球の表面には隕鉄を除いて単体の鉄が滅多に存在しないこと、ニッケルの割合が地球に存在する単体鉄と比べて隕鉄に近いことがそう判断される理由です。

隕鉄によって作られた製品が見つかる時代や地域は、紀元前4600年のイランで発見された鉄製ビーズから西暦800年のカナダに至るまで様々です。ただし、鉄器時代以前の時代に作成された鉄製品は21遺跡から合計54個しか見つかっておらず、そのほとんどはアフリカ北部、中東、東欧地域で発見されています。中欧および西欧で発見された例はほとんどなく、これまでに知られているのはポーランドにある2か所の遺跡だけでした。

■約3000年前の矢じりが隕鉄加工品であることを発見

ベルン大学のBeda A. Hofmann氏などの研究チームは、スイスのメーリゲン(Mörigen)にある杭上(こうじょう)住居群の遺跡の出土物に、隕鉄を原料とした矢じりが含まれていることを発見しました。この矢じりは今から約3000年前となる紀元前800年~紀元前900年の青銅器時代後期に作成されたと見られています。遺跡から出土したのは1873年か1874年で、100年以上後の1987年にはこれが鉄製であることを指摘されていたものの、その後の調査は行われていませんでした。

【▲ 図2: 矢じりのγ線測定結果。弱いながらもアルミニウム26の放射が存在することが確認され、隕鉄であることを示す1つの強力な証拠となった(Credit: Beda A. Hofmann, et al.)】

Hofmann氏らは、メーリゲンやその周辺の遺跡で出土した数多くの遺物の組成分析を行ったところ、この約4cmの矢じりが唯一の鉄製品であることを突き止めました。カマサイトやテーナイトといった隕鉄にのみ見られる鉱物や、アルミニウム26という寿命の短い放射性同位体が見つかったことは、矢じりが隕鉄でできているという予想を裏付けます。また、薄く平たい形状に引き延ばされており、表面に凸凹がほとんどないことは、隕鉄の破片が偶然矢じりの形状をしていたのではなく、人の手で加工されたことを示しています。

■遠くから運ばれた隕鉄である可能性が高いと判明

Hofmann氏らは当初、この矢じりは遺跡から数km先で17万年前に落下していた「トヴァンベルク隕石(Twannberg meteorite)」でできていると推定しました。地理的に近いだけでなく、この研究そのものが「トヴァンベルク隕石の落下地域周辺で鉄製品を見つける」という調査の一環でもあったためです。しかし、矢じりに含まれるニッケルやゲルマニウムの量が合わないことから、トヴァンベルク隕石が原料である可能性は低いことが分かりました。

【▲ 図3: 矢じりに含まれるニッケルとゲルマニウムの比率をプロットした図。当初候補とされていたトヴァンベルク隕石 (Twannberg) とは大きく異なる。近い組成を持つ隕石の中で、カーリ湖隕石 (Kaalijarv) が矢じりの原料の最有力候補である(Credit: Beda A. Hofmann, et al.)】

ヨーロッパに落下した隕鉄のうち、組成が矢じりに近いものは他に3つありますが、Hofmann氏らは、紀元前1870年~紀元前1440年にエストニアのサーレマー島に落下した「カーリ湖隕石(Kaalijarv meteorite)」が矢じりの原料であると推定しました。地理的にはかなり離れているものの、青銅器時代にはヨーロッパ全土に渡る貿易網がすでに確立していたことや、サーレマー島が面するバルト海では琥珀が輸出されていたことから、カーリ湖隕石の破片が琥珀と共に遠隔地へと運ばれた可能性は十分に考えられます。

Hofmann氏らは、この矢じりがカーリ湖隕石を原料とした唯一の製品ではなく、他の地域にも原料や加工品が輸出されていたとも考えています。各地の博物館が所蔵する遺物のコレクションの数は膨大であり、ほとんど調査が進んでいないため、今回の矢じりのように発掘済みの製品が気づかれず眠ったままとなっている可能性もあります。

隕鉄加工品の矢じりが何に使われていたのかは不明ですが、その希少性を考えれば、矢じりが実用に使われた可能性は低いと考えられます。Hofmann氏らは全くの推測であるという前置きをした上で、何らかの権威の象徴や霊的な儀式に使われた可能性を指摘しています。

 

Source

Beda A. Hofmann, et al. “An arrowhead made of meteoritic iron from the late Bronze Age settlement of Mörigen, Switzerland and its possible source”. (Journal of Archaeological Science) Sarah Kuta. “This Arrowhead Was Made From a Meteorite 3,000 Years Ago”. (Smithsonian Magazine)

文/彩恵りり

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