こちらは「ほ座」(帆座)の方向約1470光年先のハービッグ・ハロー天体「Herbig-Haro 46/47(HH 46/47)」です。
ハービッグ・ハロー天体は若い星の周囲に見られる明るい星雲状の天体で、若い星から恒星風やジェットとして流れ出たガスが、周囲のガスや塵の雲に衝突して励起させることで光が放たれていると考えられています。ジェットは若い星から双方向に噴出するため、この画像では中央から右上と左下の方向に一対のハービッグ・ハロー天体が形成されています。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で2023年5月24日に取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています(※)。
※…この画像では1.15μmを青、1.87μmをシアン、2.0μmを緑、3.35μmを黄色、4.44μmをオレンジ、4.7μmを赤で着色しています。
アメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、HH 46/47は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」などでも観測されたことがありますが、ジェットを放出しているとみられる若い星のペアは塵が豊富な星雲の奥に隠されていて、可視光線では捉えることができませんでした。このような星雲は「ボック・グロビュール(Bok globule)」と呼ばれていて、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された画像には赤黒い暗黒星雲として写っています。
一方、ウェッブ宇宙望遠鏡が捉える赤外線は塵に遮られにくいため、冒頭に掲載した画像では青いベールのように写っている星雲の向こう側を観測することができます。ハッブル宇宙望遠鏡の画像では星雲に隠されていたHH 46/47の若い星に近い部分や、星雲のはるか向こう側で輝く星々や銀河もウェッブ宇宙望遠鏡の画像には写っています。
誕生した若い星は周囲のガスや塵を集めて活発に成長していきます。引き寄せられた物質は若い星の周囲に円盤を形成しつつ、らせん状に落下していきますが、星が短時間であまりにも多くの物質を取り込もうとすると、一部の物質がジェットとして放出されるようになります。ジェットは星の回転を安定させ、星が保持する質量を調節する役割を果たすのだといいます。
STScIによると、HH 46/47を形成したのは誕生してからわずか数千年程度しか経っていない若い星のペアだと考えられています。数百万年に渡る形成プロセスが進むなかで、星は時間の経過とともにどのようにして物質を集めていくのか。そのことに関する知見を与えてくれることから、このような若い星は重要な研究対象のひとつとなっています。
ちなみに、ウェッブ宇宙望遠鏡で観測された冒頭の画像の一部(中央の下辺付近)を拡大すると、「?」の形をした文字通り謎めいた天体が写っています。欧州宇宙機関(ESA)によれば、詳しく知るためにはさらなる観測が必要ではあるものの、この天体は一対の相互作用銀河か、あるいは複数の銀河が偶然このような並び方をしている可能性があるということです。
https://twitter.com/esa/status/1689578677799993344
【▲ 「?」の形をした天体について解説したESAの公式X(旧Twitter)アカウントの投稿】
冒頭の画像はウェッブ宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡を運用するSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)やESAから2023年7月26日付で公開されています。
Source
Image Credit: NASA, ESA, CSA, J. DePasquale (STScI) STScI - Webb Snaps Highly Detailed Infrared Image of Actively Forming Stars NASA - Webb Snaps Highly Detailed Infrared Image of Actively Forming Stars ESA/Webb - Webb snaps highly detailed infrared image of actively forming stars文/sorae編集部