9月、夏のうだるような暑さが少しずつ遠のき、秋の虫の声が響く時季となります。そんな折、星空でも夏の星座と秋の星座がゆっくりと入れ替わっていきます。
南西の空には夏の大三角があります。こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブという3つの1等星からなる三角形です。夏の大三角は空の高くまで昇るため見られる期間も長く、11月頃まで観察することができます。
この時期に夏の大三角から空の低いところへまっすぐ視線を下ろしていくと、いて座があります。
いて座は6つの星からなる小さなひしゃくの形をした「南斗六星」が目印です。まるで北斗七星のミニチュア版のようなかわいい姿をしています。
「いて座」はケンタウルス族の賢者ケイローンが弓を構えた姿として描かれています。
つがえられた矢の先端辺りが私たちの住む天の川銀河の中心方向です。約2万7000光年先にある天の川銀河の中心には、超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)の「いて座A*(エースター)」があります。2022年5月に史上初となる電波で撮影された画像が公開され、話題となりました。
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いて座の東側にある「やぎ座」は、秋の星座に分類されます。最も明るい星でも3等星という、やや目立たない星座ですが、街明かりのない場所では二連のネックレスのような可憐な星の並びを楽しむことができます。
やぎ座は上半身がヤギ、下半身が魚という不思議な姿で描かれます。ギリシャ神話においては、牧畜の神パーンが変身に失敗した姿と語られています。
やぎ座のさらに東側には「みずがめ座」があります。「みずがめ座」のモデルはトロヤの王子ガニメーデスであると語られています。非常に美しい少年であったガニメーデスはゼウスに魅入られ、神々の国でお酌をする役割を担うことになりました。夏の大三角の星座のひとつ「わし座」は、ガニメーデスを天へ連れて行くためにゼウスが変身した黒鷲です。
また、「みずがめ座」とつながるようにして「みなみのうお座」も見えます。「みなみのうお座」の口元の星フォーマルハウトは、秋の空でただ一つの1等星です。
このように、秋の空には魚や水に関係するものが多く見られます。これは、古代メソポタミアにおいて、これらの星々が太陽とともに上る頃に雨季が訪れていたためではないかと考えられています。
かつて、恵みの雨が降る時季を知らせていたこれらの星座は、日本においては秋の風物詩となっています。澄んだ空に浮かぶ水の星座を眺めていると、心の中にまで涼しい風が吹き抜けていくようです。
夏の間は深夜に上っていた土星は、9月になると宵の空、南東の方角に見られるようになります。また、木星は真夜中に東〜南東の空で見られます。
2023年9月29日は中秋の名月です。中秋とは旧暦の8月15日を指し、この日の月にお団子やススキをお供えしたり、お月見を楽しんだりする風習があります。
今年の中秋の名月はちょうど満月ですが、毎年中秋の名月の日が満月になるとは限りません。その理由としては以下の2点が挙げられます。
【1】旧暦では、新暦になる瞬間を含む日を「1日」とします。その瞬間が1日のどの時点で起こるかによって、旧暦15日の月齢に差が生まれます。
【2】月は地球の周りを楕円軌道を描いて回っています。そのため、新月から満月までの経過日数は13.9~15.6日の範囲で変化します。
上記2点の理由から、旧暦15日と実際の満月の日にずれが生じることも少なくありません。
2021~2023年は中秋の名月と満月が一致していますが、2024~2029年は満月からわずかに欠けた状態で中秋の名月を迎えます。そう考えると、今年の中秋の名月はより特別に感じられます。
なお、満月を迎える瞬間は2023年9月29日18時58分です。時間にもこだわって、完璧な「中秋の名月」を眺めるのも楽しいかもしれませんね。
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Image Credit: 国立天文台, sorae編集部 国立天文台 - ほしぞら情報 東京の星空・カレンダー・惑星(2023年9月) 国立天文台 - 暦計算室 名月必ずしも満月ならず 国立天文台 - 暦計算室 今月のこよみ 人と宇宙が紡ぐ風物詩 誰でも楽しめる星の歳時記 浅田英夫著 地人書館文/sorae編集部