こちらは「おとめ座」の方向約5600万光年先の渦巻銀河「NGC 4632」です。国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」に搭載されている超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC、ハイパー・シュプリーム・カム)」で撮影した画像と、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)マーチソン電波天文台の電波望遠鏡「ASKAP」の観測データを合成したものとなります。
CSIROによると、青く輝くNGC 4632を取り囲んでいるのはASKAPで捉えられた低温の水素ガスのリングです。このリング構造はNGC 4632の銀河円盤に対して90度の角度で周回しているといい、クイーンズ大学(カナダ)のNathan Deg博士らが参加した研究チームの観測で発見されました。
星々やガスでできたリングが円盤に対して大きな角度で周回している銀河は「極リング銀河(Polar Ring Galaxy)」と呼ばれていて、「うお座」の「NGC 660」などが知られています。アメリカ航空宇宙局(NASA)によると、既知の極リング銀河はどれも光学観測で発見されてきたといい、NGC 4632は電波観測によって極リング銀河の可能性が示された初の銀河のうちの1つとされています。
関連:独自の環と大規模爆発が確認された「極リング銀河」(2019年5月13日)
研究に参加したCSIROのBärbel Koribalski教授によると、今回の研究はASKAPを使用して行われている観測プロジェクト「WALLABYサーベイ」の一環として実施されました。WALLABYは南天全体の観測を通して数十万の銀河におけるガスの分布の検出・可視化を目的としており、今回の研究では同サーベイ初期の小規模な観測の対象となった600個の銀河から2つの銀河(NGC 4632とNGC 6156)が極リング銀河の候補として特定されています。Degさんによれば、今回の結果は天の川銀河の近くにある銀河のうち1~3パーセントにはこうしたリングが存在する可能性を示唆していますが、この割合は光学観測の結果から予測された割合よりも高いようです。
CSIROによると極リング銀河のリング構造がなぜ存在するのかはまだよくわかっておらず、相互作用した銀河から剥ぎ取られた物質でできている可能性や、コズミックウェブ(※)に沿って銀河に流れ込んだガスからリングが形成される過程で星が誕生した可能性などが考えられるといいます。ASKAPによる今後数年間の観測で極リング銀河のようなめずらしい銀河がより多く発見されれば、暗黒物質(ダークマター)の性質に関する手がかりが得られるかもしれないと期待されています。
※…暗黒物質が形作るフィラメント状(糸状)の大規模構造、宇宙のクモの巣とも。
冒頭の画像はCSIROやNASAから2023年9月13日付で紹介されています。
Source
Image Credit: Jayanne English (U. Manitoba), Nathan Deg (Queen's University) & WALLABY Survey, CSIRO/ASKAP, NAOJ/Subaru TelescopeCSIRO - Astronomers reveal cosmic ribbon around rare galaxy NASA - NGC 4632: Galaxy with a Hidden Polar Ring Deg et al. - WALLABY pilot survey: the potential polar ring galaxies NGC 4632 and NGC 6156 (MNRAS, arXiv)
文/sorae編集部