株式会社ispaceは9月28日、米国子会社ispace technologies U.S., inc.(以下「ispace U.S.」)がコロラド州デンバーに開設した米国本社の本格運用開始を発表すると同時に、3回目の月面探査ミッション「ミッション3」に関するアップデートを発表しました。ミッション3はispace U.S.で開発が進められている新型の月着陸船(ランダー)を用いて2026年に実施される予定です。【2023年9月29日11時】
ispaceは独自に開発したランダーによる月面へのペイロード輸送サービスを手掛けています。ランダー「Series1(シリーズ1)」の初号機による日本初・民間企業初の月面着陸を目指した「ミッション1」では2023年4月26日に月面着陸が試みられましたが、ランダーは月面に衝突して着陸は失敗に終わりました。ミッション1の計画段階で生じた着陸地点の変更にともなうソフトウェアの問題により、推定高度に約5kmの誤差が生じたことが原因だったと分析されています。
【特集】月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1
最初のミッションでは着陸に失敗したものの、ispaceはランダーを継続的に月へ送り込むことを計画しています。2024年の打ち上げが予定されている「ミッション2」ではミッション1と同じSeries1ランダーを使用し、顧客のペイロードに加えてispaceが開発したローバー(探査車)も搭載されることが発表されています。
今回アップデートが発表されたのは、その次に実施されるミッション3の内容です。ミッション3ではSeries1ランダーよりも大型化した新型ランダー「Series2」が用いられる予定でしたが、ispace U.S.で開発されているランダーの名称が「APEX 1.0」に改められ、設計も一部変更されたことが明らかになりました。
ミッション1で初飛行したSeries1ランダーは、地球や月から一旦離れた後で再び戻ってくるような軌道を描く低エネルギー遷移軌道(low-energy transfer orbit)を飛行します。この軌道は月へ到着するまでに時間がかかるものの、ランダーに搭載する推進剤を少なくできるメリットがあります。
これに対し、APEX 1.0ランダーでは月へ直接向かう軌道が採用されました。この軌道は月へ到着するまでの時間が短くて済み、打ち上げ条件の自由度やミッションの成功確度を向上させるメリットがあるものの、より多くの推進剤を必要とします。そのため、Series2ランダーの月面へのペイロード輸送能力は最大500kgの予定でしたが、設計を改めたAPEX 1.0ランダーでは推進剤が増えることから最大300kgに減っています。ispaceは顧客の要求拡大に対応するべく、最大500kgを目指して段階的にペイロード容量を引き上げるとしています。
その一方で、月周回軌道および月の裏側や極域への輸送能力などはSeries2ランダーから引き継がれています。ispace U.S.は米国のドレイパー研究所が率いるTeam Draperに参加しており、ミッション3ではTeam Draperが契約したアメリカ航空宇宙局(NASA)の商業月面輸送サービス(Commercial Lunar Payload Services:CLPS)の下で、NASAの3つの科学ペイロードが月周回軌道と月の裏側の極域に輸送される予定です。地球との通信を確立するため、ミッション3では月周回軌道に2機の中継衛星も展開される予定となっています。
また、ミッション3はこれまで2025年に実施される予定でしたが、Series2ランダーからAPEX 1.0ランダーへの移行にともなって2026年に変更されたことも発表されました。ミッションの実施を1年先送りしたことで、ランダーの機能強化や慎重な取り扱いが必要なペイロードの輸送に対応できるとispaceは述べています。同社によると、ispace U.S.によるミッション3に向けた開発は順調に進んでいて、APEX 1.0ランダーに関する基本設計審査(Preliminary Design Review:PDR)はすべて完了しており、2023年度末までに詳細設計審査(Critical Design Review:CDR)を完了する予定だということです。
Source
Image Credit: ispace ispace - ispace U.S. 、新たな米国本社及び月着陸船APEX1.0を公開し、 ミッション3のアップデートを発表文/sorae編集部