土星最大の特徴である大きな環は土星が形成された頃から存在するのではなく、地質学的には最近と言える数億年前に形成された可能性が近年の研究で指摘されています。グラスゴー大学/オスロ大学のLuis Teodoroさんを筆頭とする研究チームは、土星の環は2つの衛星が衝突したことで形成されたとする研究成果を発表しました。
土星の環が衛星どうしの衝突で生じた破片から形成された可能性に着目した研究チームは、衛星の大きさや衝突の仕方を変えた約200通りのシミュレーションを実施しました。その結果、2つの氷衛星の衝突によって生じた破片から環が形成されたり、新たな衛星が形成されたりする可能性が示されたといいます。
土星の環は主に水の氷でできていて、岩は少ししか存在しないことが知られています。研究に参加したダラム大学のVincent Ekeさんによると、氷衛星どうしの衝突では衛星の中心部にある岩よりもその上にある氷のほうが分散しやすいことから、土星の環が主に氷でできていることをうまく説明できる可能性があるようです。
【▲ 今回の研究で実施されたシミュレーションを紹介するアメリカ航空宇宙局(NASA)の動画(Credit: NASA/Jacob Kegerreis/Luís Teodoro)】
長いあいだ存在していた2つの衛星が数億年前に衝突したのは、太陽の重力によるわずかな影響が積み重なった結果、衛星の軌道が他の衛星と交差する楕円軌道に変化したからだと考えられています。月が少しずつ地球から遠ざかっているように土星の衛星も少しずつ土星から遠ざかっており、衛星の軌道がある位置まで広がった時に、こうした衛星どうしの衝突につながる変化が生じると予想されています。
興味深いことに、現在では土星の衛星レア(直径約1530km)がまさにそのような位置で公転しているといいます。ところが、古くから存在する衛星であれば軌道が不安定になる影響を受けているはずなのに、レアの軌道はほぼ真円です。このことから、レアは古くから存在する衛星ではない可能性が指摘されています。
今回の研究は土星の環がまだ新しいとする近年の研究と一致する結果にたどり着きましたが、それでもなお土星とその衛星には幾つもの謎が残されています。研究内容を紹介したアメリカ航空宇宙局(NASA)は、その一例として衛星エンケラドゥス(直径約500km)を挙げています。
エンケラドゥスは氷の外殻の下に内部海が広がっている可能性があり、生命が誕生している可能性も指摘されています。仮に土星の衛星の一部がまだ新しいとすれば、エンケラドゥスの生命居住可能性を探る研究にも関わってくるかもしれません。今回の研究成果は、土星やその衛星をさらに深く理解することにつながると期待されています。
Source
NASA - New Simulations Shed Light on Origins of Saturn’s Rings and Icy Moons Teodoro et al. - A Recent Impact Origin of Saturn's Rings and Mid-sized Moons (The Astrophysical Journal)文/sorae編集部