アメリカ航空宇宙局(NASA)は11月1日付で、小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」による小惑星「Dinkinesh(ディンキネシュ)」のフライバイ探査が完了したと発表しました。取得されたデータは最大1週間かけて地球に送信される予定です。【2023年11月2日14時】
2021年10月に探査機が打ち上げられたLucyは、「木星のトロヤ群」に属する小惑星の探査を主な目的としたミッションです。小惑星帯を公転しているものも含めて合計10個の小惑星を訪問することから、ミッションの期間は2021年から2033年までの12年間が予定されています。
木星のトロヤ群とは太陽を周回する小惑星のグループのひとつで、太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にあるL4点付近(公転する木星の前方)とL5点付近(同・後方)に分かれて小惑星が分布しています。幾つもの小惑星を一度のミッションで観測するために、Lucy探査機は小惑星を周回する軌道には入らず、小惑星の近くを通過しながら観測するフライバイ探査を繰り返し行います。
木星のトロヤ群小惑星は初期の太陽系における惑星の形成・進化に関する情報が残された「化石」のような天体とみなされています。これらの天体を間近で探査することから、ミッションと探査機の名前はエチオピアで見つかった有名な化石人骨の「ルーシー」(約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの一体)にちなんで名付けられました。
Dinkineshは小惑星帯を公転する幅約700mのS型小惑星で、その名前はルーシー(化石人骨)のエチオピア名にちなんで名付けられています。今回のDinkineshフライバイ探査は今後10年間の探査で使用される装置やシステムのテストと位置付けられていて、Lucy探査機に搭載されている望遠カメラ「L’LORRI」、熱放射分光器「L'TES」、可視光カラーカメラ「MVIC」と赤外線撮像分光器「LEISA」で構成される観測装置「L'Ralph」による観測はもとより、フライバイ中に小惑星の位置を自律的に特定しながら観測装置の視野内に収め続けるための自動追尾システムのテストが行われました。
【▲ NASAが公開しているLucyによるDinkineshのフライバイ探査を解説した動画(英語)】
(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)
NASAによると、Lucy探査機のDinkineshへの最接近予定時刻は日本時間2023年11月2日1時54分で、Dinkineshから430km以内の最接近点を毎秒4.5kmの相対速度で通過したとみられます。NASAが公開しているイメージイラストや動画を見ると小惑星のすぐ近くを通過しているように思えますが、実際には最接近時でも東京~神戸間の直線距離と同じくらい離れていたため、L’LORRIで取得した画像に写るDinkineshは幅数百ピクセル程度と予想されています。
なお、今後のLucy探査機は2024年12月に地球フライバイを行って軌道を修正し、2025年には2つ目の探査対象である小惑星帯の小惑星「Donaldjohanson(ドナルドジョハンソン)」のフライバイ探査を行う予定です。その後は2027年の「Eurybates(エウリュバテス)」とその衛星「Queta(ケータ)」をはじめ、ミッションの主目標である木星のトロヤ群の小惑星探査が行われます。
NASAによると、今回実施された初のフライバイ探査でLucy探査機がどのように動作したのか確認するのを運用チームは楽しみにしているということです。
Source
NASA - Lucy Mission (NASA Blogs)文/sorae編集部