アメリカの民間宇宙企業アストロボティック社は現地時間2023年10月31日、同社の月着陸船「Peregrine(ペレグリン)」が打ち上げ施設のある米国フロリダ州ケープカナベラルに到着したと発表しました。
アストロボティックが開発したPeregrineは最大120kgのペイロードを搭載できる月着陸船で、月面への輸送コストは1kgあたり120万ドルとされています。Peregrineの初飛行となるミッション「Peregrine Mission One(PM1)」の打ち上げでは、こちらも初飛行となるユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の新型ロケット「Vulcan(ヴァルカン、バルカン)」が使用されます。PM1のPeregrineを搭載したVulcanロケットは、早ければ2023年12月24日にケープカナベラル宇宙軍基地第41発射施設から打ち上げられる予定です。
今回打ち上げられるPeregrineには、アメリカ航空宇宙局(NASA)の商業月輸送サービス(CLPS)の下で合計21のペイロードが搭載されます。着陸目標地点は「嵐の大洋」の北東の端に位置する入江「Sinus Viscositatis(※)」で、アストロボティックによれば着陸後は約10日間に渡りペイロードが運用される予定です。成功すれば民間企業として世界初の月着陸となります。
※…意味は英語で「Bay of Stickiness」、日本語の仮訳は「粘りの入江」(Wikipediaより)。国際天文学連合(IAU)が2022年12月に承認した新しい地名。
ちなみに、PM1のペイロードには日本の民間企業や研究機関などが参加した「LUNAR DREAM CAPSULE PROJECT(ルナドリームカプセルプロジェクト)」による総重量1kgのタイムカプセル「LUNAR DREAM CAPSULE(ルナ・ドリームカプセル)」も含まれています。このプロジェクトはアストロスケール・ジャパンと大塚製薬がプロデュースを担当し、日本の中小企業によるカプセルの製作、大学研究室によるカプセルの研究と検証が行われます。カプセルの中にはイオン飲料「ポカリスエット」の粉末が封入されているということです。
2023年は日本・ロシア・インドの着陸船が月着陸に挑みました。4月26日には日本の民間宇宙企業ispace社が月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション1で民間初の月着陸に挑戦したものの失敗。8月にはロシアが月着陸船「Luna25(ルナ25号)」による旧ソ連時代以来の月着陸を目指しましたが、問題が発生して着陸には至りませんでした。失敗が相次ぐ中、8月23日にはインドが月着陸船「Chandrayaan-3(チャンドラヤーン3号)」による同国初の月着陸に成功し、世界中から注目されました。
なお、2023年9月7日には宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」がH-IIAロケット47号機で打ち上げられており、2024年に月着陸が行われる予定です。
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Image Credit: ULA, Astrobotic Astrobotic - PEREGRINE ARRIVES IN FLORIDA FOR LAUNCH PREPARATIONS Astrobotic - Moon Manifest LUNAR DREAM 実行委員会 - 史上初、民間で月面到達へ 『LUNAR DREAM CAPSULE PROJECT』始動 大塚製薬 - ルナプロジェクト(ポカリスエット公式サイト) SpaceNews - Astrobotic lander arrives at launch site NASA - Commercial Lunar Payload Services (CLPS) Deliveries文/出口隼詩