太陽の直径はどのくらいなのでしょうか?これは測定することが困難で、過去に様々な値が提唱されています。
東京大学の高田将郎氏とケンブリッジ大学のDouglas Owen Gough氏の研究チームは、太陽の直径の研究としては初めて「pモード」と呼ばれる太陽の振動に基づく計算を行い、太陽の直径を139万1560kmであると算出しました (※) 。これは光学的に直接観測された値よりわずかに小さい一方で、太陽の振動に基づく従来の手法の計算値よりわずかに大きな値です。
※…天体の大きさは半径で解説する方がより正確性が高いのですが、この記事では分かりやすさを優先し、太陽の大きさを直径で説明します。
太陽系唯一の恒星である太陽の直径はどのくらいの値なのでしょうか? IAU(国際天文学連合)の作業部会が2015年に定義した太陽の直径は139万1400kmであり、特に断りが無ければ混乱を避けるためにこの値が引用されます。しかし2009年の定義では139万2000kmと、1891年に測定された太陽の大きさを100年以上採用していました。2015年に定義値が変わったのは、太陽の大きさを求める試みが続けられた結果です。
ところで、太陽は高温のガスでできているため、地球のように固体の表面を持ちません。このため太陽の直径を求めるには、簡単に言えば、光が通らなくなるほどガスの密度が濃くなる場所を “表面” と見なして測定することになります。これはより正確には「光学的深さ」と呼ばれる手法による定義であり、視覚的な太陽の大きさと一致します。
ただし、太陽の正確な直径を光学的に直接測定するのは困難です。太陽は極めて明るい上に、普段の空には太陽と大きさを比べられるものが存在しないためです。数少ない例外として、水星や月が太陽の前を横切る太陽面通過や金環日食の発生している時間を正確に観測し、直径を直接求める方法があります。ただし、これらの天文現象は滅多に起こらない現象である上に、大気の揺らぎなどで測定結果に誤差が生じてしまうため、正確に求めることは困難です。
一方で1960年代より、太陽の表面に発生する固有の振動が見つかったことで、振動から太陽の直径を求める「日震学」の手法でも太陽の直径が求められています。弦楽器が弦の長さによって固有の音が出せるように、太陽の振動 (日震) の周期は太陽の直径によって決まります。つまり振動周期を正確に求めることができれば、太陽の直径を計算により求めることができます。これは太陽の表面を詳細に観測できれば時期に依存せずに求めることができます。
従来、太陽の直径を振動周期で求めるには「fモード」と呼ばれる振動を利用していました。この振動は太陽の表面に現れやすいため、測定しやすいというメリットがあります。IAUにおける太陽の直径の定義値も、fモードを元に太陽の直径を計算した研究を元に定められています。しかし、fモードは太陽の表面に正確に表れていないのではないかという見解も一部にあり、その場合、fモードは太陽の直径を正確に反映していないことになります。
実際、光学的に直接観測された太陽の直径と、fモードに基づき計算した太陽の直径にズレがあることは、太陽観測における問題として残されています。例えば国立天文台では、古い値であることを承知の上で、IAUの2009年の定義である139万2000kmを太陽の直径として引用しています。これは光学的な直接観測による太陽の直径に近い値です。
■「pモード」に基づく太陽の直径を計算本来、直接観測と計算値には大きなズレが生じないはずですが、現状の問題が発生しているということは、太陽の振動に関する理解が不十分であることを表しています。高田氏とGough氏の研究チームは、「pモード」と呼ばれる別の振動モードに基づく太陽の直径の計算を試みました。これはより太陽の表面に近い場所で反射されると考えられており、太陽の正確な直径を反映すると考えられます。また、pモードは太陽内部の活動によって発生した波であり、発生状況が太陽内部の物質密度を正確に反映していると予測されます。このため、正確な太陽モデルを用意し、pモードに基づく計算を行えば、より正確な太陽の直径を計算できると考えられます。
高田氏とGough氏の計算の結果、pモードに基づく太陽の直径は139万1560km(±320km)であると算出されました。これは光学的な測定に基づく値である139万2000kmよりわずかに小さい一方で、fモードに基づく値である139万1400kmよりわずかに大きな値です。pモードでの太陽の直径の算出は初めてです。
■太陽モデルの見直しはこれからの研究次第今回の研究結果は、振動モードによって算出される太陽の直径が変わってしまったという点から、従来の研究に用いられている太陽のモデルの正確性に疑問符を付ける計算結果となります。ただし、太陽のモデルに対する太陽の振動の現れ方や伝わり方は極めて複雑であるため、この結果だけでは太陽のモデルを書き換えることは困難です。
実際、他の研究では異なる太陽の直径が計算されており、これは異なるモデルやデータに基づいて計算しているか、もしくは太陽の直径そのものが活動によって変化している可能性もあります。太陽の直径の研究は、太陽の性質そのものをより深く知ることに繋がり、結果として太陽以外の恒星についての理解を深めることにも繋がるでしょう。
Source
M. Takata & D. O. Gough. “The acoustic size of the Sun”. (arXiv) Carly Cassella. “Our Sun Might Not Be Quite as Big as We Thought”. (Science Alert)文/彩恵りり