2024年6月、マンフレッド・ラクス宇宙法模擬裁判大会アジア・太平洋予選が東京・目白の学習院大学で開かれます。予選は2023年も東京で行われており、2年連続して日本で開催されることになります。
2023年のアジア・太平洋予選では、中国、シンガポール、インドなどのアジア各国から、国際法や宇宙開発に興味のある学生が参加をしました。
本連載では宇宙法模擬裁判について詳しく迫ります。第3回は、2023年に行われたアジア・太平洋予選へ日本チームの1人として出場した京都大学法学部2年の齋藤陽介(さいとう ようすけ)さんに、国際法や宇宙法へ興味を持ったきっかけ、予選の体験をお聞きしました。
連載第1回:マンフレッド・ラクス宇宙法模擬裁判大会とは? 2024年アジア・太平洋予選は日本で開催
連載第2回:“宇宙法模擬裁判はコミュニケーションが大切” 大会予選参加者に聞く
齋藤さんは国際法や国際政治に興味を持ち、大学で勉強しています。その原点は、2016年に国際仲裁裁判所で実施された、中国とフィリピンによる南シナ海の領有権に関する仲裁裁判でした。「国際法がパワーに左右されない結論を出したことに興味を持った」と当時を振り返ります。また、天文や宇宙開発にも興味を抱いており、高校2年生の時に地学オリンピックに参加した経験もあるということです。
大学で学んでいく中で、国際法や国際政治が宇宙開発とも関連があることに気づいたといい、「バラバラになっていた知識や一見関係のない知識が結びついていく体験は興味深い。根でつながっている同じような議論が出てきた時に脳内でドーパミンが出るような感覚がある」と熱く述べました。その気づきのきっかけが宇宙法模擬裁判との出会いです。齋藤さんにとって模擬裁判とは、自らの興味関心を深め、思考を進展させるためのツールだといいます。
齋藤さんは2023年1月から本格的に京大国際法学研究会で活動を開始しました。模擬裁判は、研究会の出場チームの一員として、2023年3月に日本で開催された「宇宙法模擬裁判日本大会」(※)が初の参加となります。しかし、「模擬裁判に関しては知識不足で、全体像が掴めずにいた」と言います。ですが、日本大会では被告弁論第2位の成績を取り、初出場ながらその頭角を表しています。そして、日本大会後は、マンフレッド・ラクス宇宙法模擬裁判アジア太平洋予選に関わることになりました。齋藤さんは主に書面(メモリアル)執筆と弁論の練習相手などのサポートメンバーとして活躍しました。
※…日本大会は日本宇宙法学生会議が主催する宇宙法模擬裁判で、マンフレッド・ラクス宇宙法模擬裁判とは独立した大会。
予選の出場チームは、全国各地の大学生がメンバーとなったため、地理的な距離が離れていました。そのため、日々のコミュニケーションの多くはオンラインツールや文章で行われ、伝えたいことがうまく伝わらなかったり、誤解を招いてしまうこともあったと言います。いっぽうで、齋藤さんによると、オンラインの活動は、地理的な制限を超えて、模擬裁判に参加しやすくなる点もあるのではないかと利点も強調しました。
オンラインでの準備期間を経て、齋藤さんがチームメンバーに対面で会えたのはなんと大会当日でした。そして、迎えた予選の弁論は、海外チームの語学力に圧倒され、相手のボディーランゲージや表情、身振りや手振りに注目していたと振り返ります。
前回取材をした中花田さんと同様、齋藤さんは弁論におけるコミュニケーションの大切さを説いています。コミュニケーションを重ねた上で、「どれだけ良い主張や法的な主張を思い付いたとしても、それをきちんと伝えることができなければ、相手に納得してもらうことはできない」と、伝えることの重要性を強調しました。
齋藤さんは、模擬裁判を通して「批判的検討を加えたり、少し踏み込んだ議論をしながらアクティブな知識を学べた」といいます。本を読んだり、授業を受けたりして学んだ知識は、アウトプットしなければ具体化もできません。しかし、模擬裁判は問題文が出され、それを多分野の知識や論理的思考力を使ってアウトプットする必要性があります。そこに模擬裁判の魅力があるのかもしれません。
なお、来年のアジア太平洋予選は、2024年6月に開催予定です。すでに申し込みも始まっており、エントリー締め切りは2023年12月31日となっています。詳細は以下からご確認ください。
マンフレッド・ラクス宇宙法模擬裁判大会アジア・太平洋予選は、学習院大学が採択を受けた文部科学省宇宙航空科学技術推進委託費により実施されます。
課題名「宇宙ルール形成に着目した文理融合×産官学連携による人材創造プログラム」
Source
Image Credit: マンフレッド・ラクス宇宙法模擬裁判アジア太平洋予選事務局文/出口隼詩