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太陽系外惑星「WASP-107b」に二酸化硫黄と砂の雲を発見 光化学反応と高温の大気循環の証拠

sorae.jp 2023年12月8日 20時45分

恒星からの熱で膨張している「WASP-107b」は、大気組成を詳細に観測しやすい太陽系外惑星の1つです。パリ・シテ大学のAchrène Dyrek氏を筆頭著者とする国際研究チームは、WASP-107bを「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」で観測し、これまでで最も詳細な大気組成のデータを得ました。注目すべき発見として、二酸化硫黄と砂粒の雲の検出や、メタンの不検出があり、これらは従来の惑星モデルを書き換えるものです。

【▲図1: 恒星WASP-107からの高温で熱せられ、大気が膨張しているWASP-107bの想像図(Credit: LUCA School of Arts (Belgium) - Klaas Verpoest (visuals) & Johan Van Looveren (typography))】

■大気観測に適した “ふわふわした惑星” 「WASP-107b」

太陽以外の天体の周囲を公転する太陽系外惑星には、太陽系では決して見られない環境を持つ惑星も見つかっています。例として、恒星のすぐ近くを公転する海王星や木星のような天体があります。これらの惑星は恒星に極めて接近しているために、表面が数百℃以上に熱せられ、大気全体の熱膨張によって平均密度が極めて低くなっています。このような惑星は俗称として、「パフィー・プラネット(直訳すれば “ふわふわした惑星”)」と呼ばれることもあります。

このような低密度の惑星は、大気の組成を調べる研究において重要視されます。遠く離れた惑星の大気を調べるには、大気中を通過した光から、分子の種類に応じて現れる吸収スペクトル (※1) を分析・同定する必要があります。低密度な惑星の観測データは高密度の惑星と比べて、下層部の大気の情報をより多く含んでいるため、気体が主体の惑星全体の組成を推定したり、その形成や進化を考察したりする上で重要な手掛かりとなります。

※1…天体からの光を波長ごとに分析した際に現れる、他の波長より顕著に暗い部分を吸収スペクトルと呼びます。吸収スペクトルは、分子がその種類ごとに決まった波長の光を吸収するために現れるものであり、吸収スペクトルから逆算で分子の種類を特定することができます。

2017年に発見された「WASP-107b」は、まさにそのような惑星の1つです。木星と比較すると、WASP-107bの直径はほぼ同じですが、質量は10分の1しかないため、平均密度はコルクに匹敵する1立方cmあたり0.2gしかありません。地球からの距離が約200光年と比較的近いことや、WASP-107bが公転している恒星「WASP-107」の明るさも明るいことから、WASP-107bは大気の詳細な観測に適した太陽系外惑星の1つに挙げられています。

これまでの観測により、WASP-107bには「二酸化硫黄」が存在することが示唆されていましたが、同時にこの発見には疑問の声も挙がっていました。これまでの惑星科学のモデルでは、二酸化硫黄は約930℃以上の高温の大気中ならば、光を介する「光化学反応」で形成されると考えられていました。その一方で、約730℃以下の温度では二酸化硫黄は生成されず、代わりに硫黄の同素体が生成され、それが二酸化硫黄の吸収スペクトルと似ているとも考えられていました。実際、WASP-107bの大気上層部の温度は約470℃であるため、二酸化硫黄が形成される推定温度をはるかに下回っています。

■WASP-107bの大気の詳細をジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測

【▲図2: WASP-107bの中赤外線領域の吸収スペクトルを表した図。二酸化硫黄、砂の雲、水蒸気が検出された一方で、メタンは検出されませんでした(Credit: Michiel Min, European MIRI EXO GTO team, ESA & NASA)】

Dyrek氏を筆頭著者とする国際研究チームは、WASP-107bをウェッブ宇宙望遠鏡で観測し、これまでよりずっと高精度な大気のデータを取得しました。ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された中間赤外線観測装置(MIRI)は、二酸化硫黄を含むいくつかの分子を捉えるのに適切な分光器です。

観測の結果、まず二酸化硫黄が間違いなく存在するという観測的証拠を得ました。これはWASP-107bの大気中で光化学反応が起きているという証拠でもあります。光化学反応の存在が示された惑星はWASP-39bに次いで2例目ですが、両方ともその観測的証拠はウェッブ宇宙望遠鏡を通じて得られたものです。

また、WASP-107bの二酸化硫黄および水蒸気の存在を示す吸収スペクトルは、雲がかかったようにはっきりしないものでした。これは比喩表現ではなく、実際に存在する雲が吸収スペクトルを不明瞭にしていると考えられます。今回の観測では、雲の組成を測定するという稀な機会に恵まれ、雲がケイ酸塩で構成されていることを突き止めました。

ケイ酸塩は、地球で身近な岩石や砂などを構成する主成分であるため、WASP-107bの大気上層部には砂の雲があることを示しています。これは意外な発見です。地球では水が蒸発して水蒸気の雲ができるように、高温の惑星では大気下層部でケイ酸塩が蒸発して砂の雲ができることは分かっていました。しかし、砂の雲が大気上層部まで上がるためには、これまでは1000℃以上の高温が必要だと考えられていたのです。前述の通りWASP-107bの大気上層部の温度は約470℃ですが、WASP-107bの内部はそれよりもかなり高温であり、かつ大気の下層部と上層部を十分に混ぜるだけの強い大気循環が起きていることを示しています。

WASP-107bの内部が高温であり、熱による強い大気循環が起きていることを示す別の証拠は、メタンの不検出です。メタンは温室効果ガスとして大気を温めますが、十分な高温と強い光があると分解します。高感度なウェッブ宇宙望遠鏡の性能を駆使してもメタンが検出されなかったことは、WASP-107bでは大気下層部まで十分な強さの光が届いており、内部が高温で熱せられ、メタンが分解されていることを示しています。メタンの不検出は、砂の雲の検出と共に、WASP-107bの激しい大気循環の証拠となります。

ウェッブ宇宙望遠鏡によるWASP-107bの観測結果は、従来の惑星科学のモデルでは十分に説明ができず、修正が必要なことを示しています。

 

Source

Achrène Dyrek, et al. “SO2, silicate clouds, but no CH4 detected in a warm Neptune”. (Nature) “James Webb Space Telescope detects water vapour, sulfur dioxide and sand clouds in the atmosphere of a nearby exoplanet”. (Katholieke Universiteit Leuven)

文/彩恵りり

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