こちらは「カシオペヤ座」の方向約1万1090光年先の超新星残骸「カシオペヤ座A(Cassiopeia A、Cas A)」です。ピンク色やオレンジ色をしたフィラメント状(ひも状)の構造を、白い煙のようなものが取り巻いている様子が精細に捉えられています。
超新星残骸とは、質量が太陽の8倍以上ある重い恒星が超新星爆発を起こした後に観測される天体のこと。輝いているのは爆発の衝撃波によって加熱されたガスで、可視光線をはじめ赤外線やX線などが放射されています。ガスが広がる速度をもとに、直径約10光年のカシオペヤ座Aを生み出した超新星爆発がもしも観測されていたとすれば、それは今から約340年前のことだったと考えられています。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、画像でピンク色やオレンジ色に着色されている部分はカシオペヤ座Aの内殻を構成する物質を示しています。鋭敏なウェッブ宇宙望遠鏡であれば、星から放出された硫黄・酸素・アルゴン・ネオンといったガスでできた小さな塊を幅100天文単位(※)程度までなら識別できるといいます。
※…1天文単位(au)は約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来。
一方、内殻を取り囲む白い煙のようなものはシンクロトロン放射を捉えたものだとされています。シンクロトロン放射とは磁場の中で螺旋を描きながら運動する電子などの荷電粒子から放射される電磁波のことで、ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamはそのうちの近赤外線の領域を捉えました。
また、超新星爆発の光が離れた場所の塵を加熱し、その塵が冷えていく過程で観測された光エコー(Light echo)も画像の右下隅に写っています。STScIによれば、赤外線を放射している塵はカシオペヤ座Aからさらに約170光年遠くにあるといい、研究者から「Baby Cas A」と呼ばれています。
今回の観測を行った研究チームを率いるパデュー大学のDanny Milisavljevicさんは「NIRCamの解像度によって、今私たちは死にゆく星が爆発した時にどのように粉砕され、小さなガラス片のようなフィラメントを残したのかを見ることができます」「長年カシオペヤ座Aを研究してきましたが、星がどのように爆発したのかについての変革的な知見をもたらす詳細が今解明されたことに信じられない思いです」と語っています。
冒頭のカシオペヤ座Aの画像はSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)から2023年12月10日・11日付で公開されています。
Source
STScI - NASA's Webb Stuns With New High-Definition Look at Exploded Star NASA - NASA’s Webb Stuns With New High-Definition Look at Exploded Star ESA/Webb - Researchers stunned by Webb’s new high-definition look at exploded star文/sorae編集部