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軌道共鳴している惑星「TOI-2202 b」の公転軌道はかなり傾いていると判明

sorae.jp 2023年12月28日 20時9分

惑星の公転軌道の傾きがどのように生じているのかは、惑星科学における大きな謎の1つです。惑星同士の重力相互作用による公転軌道の変化は有力視されているメカニズムの1つですが、それでも詳細について判明していない点があります。

イェール大学のMalena Rice氏などの研究チームは、太陽系外惑星の「TOI-2202 b」の公転軌道の傾きを測定した結果、約26度とかなり傾いていることを測定しました。TOI-2202 bは、公転軌道が変化しにくい軌道共鳴の状態にあると予測されています。今回の研究成果は、重力相互作用によって軌道が傾くという仮説とは一致しないため、とても重要な発見です。

【▲図: 恒星の自転軸に対して、2つの惑星の公転軌道が傾いている概念図(Credit: Malena Rice)】

■惑星の公転軌道が傾く理由には多くの謎が

太陽の赤道を基準として、太陽系の惑星の公転軌道の傾きを測定すると、(かつて惑星に分類されていた冥王星を除く)8つの惑星全てが10度以内に収まります。一方で、太陽系以外の惑星系について同様に公転軌道の傾きを調べて見ると、約3分の1が非常に大きく傾いていることが知られています。

恒星が誕生する現場では、恒星の周りに原始惑星系円盤が存在し、その中で惑星が誕生します。原始惑星系円盤の回転は中心の恒星の自転と一致するため、惑星の公転軌道は恒星の赤道から見てそれほど傾かないはずです。このため、極端に公転軌道が傾いた惑星系が誕生するには、何か別のメカニズムが働いていることが予想されます。

有力視されているメカニズムは次の通りです。惑星が複数ある場合、公転を繰り返している間に惑星同士の距離が近くなり、重力相互作用によって惑星の公転軌道が乱れる場合があります。この公転軌道の乱れが、極端に傾いた公転軌道を生じると考えられます。

しかし、太陽系外惑星の公転軌道の傾きを測定することは困難であり、これまでに約100の惑星系のみで公転軌道が判明しています。この少なさから、公転軌道の変化に関する詳細なモデルを組むことが難しくなり、メカニズムの検討もうまく行っていません。

■「TOI-2202 b」の極端な公転軌道の傾きを発見!

Rice氏らの研究チームは、太陽系外惑星「TOI-2202 b」の軌道傾斜の度合いを測定しました。TOI-2202 bは、地球から見て「みずへび座」の方向にある約770光年離れた恒星「TOI-2202」の周りを公転しています。研究チームはケント山天文台のミネルヴァ・オーストレイリス望遠鏡(オーストラリア、クイーンズランド州)を使用し、TOI-2202からの光が惑星の公転によって変化する「ロシター・マクローリン効果」(※)を測定しました。その変化は小さいため、精密な観測が必要ですが、これによって公転軌道の傾きを調べることが可能です。

※…自転をしている恒星を遠くから観察すると、片側の半球は観測者に近づいて見え、もう片側の半球は観測者から遠ざかって見えるため、ドップラー効果によって近づく半球からの光は青方偏移、遠ざかる半球からの光は赤方偏移します。恒星の手前を惑星が通過する時は、青方偏移している側か赤方偏移している側のどちらかの光が遮られるため、恒星の光の波長には偏りが生じます。こうして波長に現れるドップラー効果の違いがロシター・マクローリン効果です。この効果を観測することで、惑星の公転軌道がどの程度傾いているのかを測定可能です。

Rice氏らは、TOI-2202 bの公転軌道の傾きが約26度(11~38度)であると測定しました。これはTOI-2202の惑星系を考えると、予想外の発見です。TOI-2202の周りには、今回観測されたTOI-2202 bだけでなく、もう1つの惑星である「TOI-2202 c」があり、それぞれの公転周期が2:1の「軌道共鳴」の関係にあると考えられています。

軌道共鳴は、惑星同士の重力相互作用に関する力学的な安定によって生じるものであり、裏を返せば、軌道共鳴が生じている惑星系では公転軌道を激しく変化させる力学的に不安定な状況は発生しないと考えられます。つまり、TOI-2202の惑星系は誕生時からほとんど変化しておらず、公転軌道の傾きが生じる理由を説明するために提唱された「重力相互作用による軌道の乱れ」のメカニズムは適用されないことになります。一方で、TOI-2202の惑星系が軌道共鳴に見えているのは偶然であり、実際にはそのような状態になっていない可能性もあるため、より詳細な研究が必要となります。

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太陽系外惑星には、恒星に極端に接近した公転軌道を持つ木星のような惑星である「ホット・ジュピター」をはじめ、生成メカニズムが不明な惑星がいくつもあります。TOI-2202 bの公転軌道の傾きの測定は、軌道共鳴に近い惑星系における公転軌道の傾きの最初の測定例であり、研究は始まったばかりと言えます。他の惑星系の公転軌道の傾きが測定されることで、この謎を解く手掛かりは増えていくことになるでしょう。

 

Source

Malena Rice, et al. “Evidence for Low-level Dynamical Excitation in Near-resonant Exoplanet Systems”. (The Astronomical Journal) Jim Shelton. “Astronomers find ‘tilted’ planets even in pristine solar systems”. (Yale University)

文/彩恵りり

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