soraeでは今年も宇宙開発や天文に関する注目のニュースをお伝えしてきました。そこで、2023年にお伝えしたニュースのなかから注目された話題をピックアップしてみたいと思います。今回は2023年7月で科学観測開始1周年を迎えた「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」で観測された天体の数々から一部をピックアップしてみたいと思います!
※本記事は2023年12月21日時点での情報をもとにしています
▼死にゆく恒星が残した惑星状星雲と超新星残骸こちらは「こと座(琴座)」の方向約2500光年先の惑星状星雲「環状星雲」(Ring Nebula、M57、NGC 6720)です。ウェッブ宇宙望遠鏡の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で取得したデータをもとに作成されました。
惑星状星雲とは、超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が進化する過程で形成されると考えられている天体です。太陽のような恒星が主系列星から赤色巨星に進化すると、外層から周囲へとガスや塵が放出されるようになります。やがてガスを失った星が赤色巨星から白色矮星へと移り変わる段階(中心星)になると、放出されたガスが中心星から放射された紫外線によって電離して光を放ち、惑星状星雲として観測されるようになるとされています。
こちらは「かじき座(旗魚座)」の方向で1987年2月に発見された超新星「SN 1987A」の残骸です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得したデータをもとに作成されました。
超新星残骸とは、質量が太陽の8倍以上ある重い恒星が超新星爆発を起こした後に観測される天体のこと。輝いているのは爆発の衝撃波によって加熱されたガスで、可視光線をはじめ赤外線やX線など様々な電磁波が放射されています。約16万8000光年先の大マゼラン雲(大マゼラン銀河)で発生したSN 1987Aは、当時岐阜県の神岡鉱山跡で稼働していたニュートリノ検出器「カミオカンデ」によってニュートリノ(超新星ニュートリノ)が検出されたことで知られています。
こちらは「おうし座(牡牛座)」の方向約6500光年先の超新星残骸「かに星雲(Crab Nebula)」です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)と「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成されました。
超新星残骸とは、質量が太陽の8倍以上ある大質量星で超新星爆発が起こった後に観測される天体のこと。爆発の衝撃波が広がって周囲のガスを加熱することで、可視光線やX線といった電磁波が放射されていると考えられています。この画像ではガス状のフィラメント(ひも)で形作られたカゴのような構造が赤色やオレンジ色で、星雲中央の領域に広がるダスト(塵)から放射された赤外線が黄白色や緑色で示されています。星雲全体に広がる白い煙のようなものはシンクロトロン放射(磁場の中で螺旋を描きながら運動する電子などの荷電粒子から放射される電磁波)を捉えたものとされています。
関連記事
・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた“こと座”の惑星状星雲「環状星雲」の姿(2023年8月29日)
・ウェッブ宇宙望遠鏡で捉えた超新星「SN 1987A」の残骸 爆発から35年後の姿(2023年9月8日)
・ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた超新星残骸「かに星雲」の姿(2023年11月3日)
こちらは2023年9月4日に観測された天王星の姿です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得したデータをもとに作成されました。
ウェッブ宇宙望遠鏡は白い極冠に覆われた天王星の本体を淡く輝く多重のリングと幾つもの衛星が取り囲んでいる様子が精細に捉えました。本体を覆う白い極冠は季節的なもので、北極付近は周囲よりも少し明るくなっているのがわかります。極冠の境界付近やそれよりも低い緯度には明るい嵐が幾つか写っており、その数、発生頻度、発生場所は季節と気象がもたらす影響の組み合わせに左右されている可能性があるといいます。
こちらは2023年6月25日に観測された土星の姿です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得したデータをもとに作成されました。
「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」などの画像とは違い、ウェッブ宇宙望遠鏡で観測した土星は暗い本体と明るい環のコントラストが印象的です。ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によれば、土星の大気に含まれるメタンのガスは太陽光のほぼすべてを吸収するため、観測に使用された波長(3.23μm)では土星本体が非常に暗く見えます。その一方、氷でできている環はこの波長でも比較的明るいままなので、このように可視光で見た時とは異なる「暗い本体に明るい環」という姿で写るのだといいます。
こちらの画像、左上に配置されているのは土星探査機「カッシーニ(Cassini)」が撮影した土星の衛星エンケラドゥスの姿、背景の青い画像はウェッブ宇宙望遠鏡の「近赤外線分光器(NIRSpec)」で観測されたエンケラドゥス周辺の様子です。ウェッブ宇宙望遠鏡の画像におけるエンケラドゥスの位置は赤色の記号で示されています。
エンケラドゥスは直径約500kmの比較的小さな衛星です。その南極域には平行に生じた複数の亀裂でできた「タイガーストライプ」と呼ばれる模様があり、ここから噴出しているとみられるプルーム(水柱、間欠泉)の存在が知られています。表面を覆う氷の外殻の下には液体の水をたたえた内部海があると予想されていて、生命が存在する可能性も指摘されていることから、エンケラドゥスは大きく注目されている天体のひとつに数えられます。
ウェッブ宇宙望遠鏡の画像には、噴出したプルームがエンケラドゥスを要として扇形に広がっていく様子が捉えられています。STScIによると、プルームはエンケラドゥス自身の直径の20倍を超える1万km以上に渡って噴出していることが、ウェッブ宇宙望遠鏡による観測で初めて明らかになりました。
関連記事
・ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測した天王星の最新画像が公開(2023年12月23日)
・明るい環が印象的 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた土星の姿(2023年7月5日)
・エンケラドゥスから噴出して土星を取り囲む水の分布 ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で明らかに(2023年6月4日)
こちらはこちらは「ほ座(帆座)」の方向約1470光年先のハービッグ・ハロー天体「Herbig-Haro 46/47(HH 46/47)」です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得したデータをもとに作成されました。
ハービッグ・ハロー天体は若い星の周囲に見られる明るい星雲状の天体で、若い星から恒星風やジェットとして流れ出たガスが、周囲のガスや塵の雲に衝突して励起させることで光が放たれていると考えられています。ジェットは若い星から双方向に噴出するため、この画像では中央から右上と左下の方向に一対のハービッグ・ハロー天体が形成されています。
こちらは「ペルセウス座」の方向約1000光年先のハービッグ・ハロー天体「Herbig-Haro 211(HH 211)」です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得したデータをもとに作成されました。
この画像では中央から右上と左下に向かって、バウショック(弧状の衝撃波面)を連ねた一対のハービッグ・ハロー天体が形成されています。HH 211でジェットを噴出させているのは誕生から1万年以内とみられる若い原始星で、質量が今の8パーセント程度しかなかった成長途中の頃の太陽に似た天体だとされています。
こちらの画像に写る左右にたなびく赤い煙のような天体は「ペルセウス座」の方向約1000光年先のハービッグ・ハロー天体「Herbig-Haro 797(HH 797)」です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得したデータをもとに作成されました。
欧州宇宙機関(ESA)によると、HH 797として観測されているジェットは、画像中央右下の暗い結び目のような部分にある若い星から双方向(この画像では左右の方向)に噴出しています。ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測の結果、一対だと思われていたジェットが実はほぼ平行に流れる二対のジェットであり、HH 797は単一の星ではなく二重星だったことが明らかになったといいます。
関連記事
・若き星が形成したハービッグ・ハロー天体 ウェッブ宇宙望遠鏡が観測(2023年8月21日)
・若き原始星の産声 ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したハービッグ・ハロー天体「HH 211」(2023年9月21日)
・実は二重星だった ウェッブ宇宙望遠鏡で捉えた若き天体「HH 797」(2023年12月5日)
こちらは「うみへび座(海蛇座)」の方向約1500万光年先の渦巻銀河「M83(Messier 83、NGC 5236)」の中心付近の様子です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得したデータをもとに作成されました。
「回転花火銀河」と呼ばれる「おおぐま座(大熊座)」の渦巻銀河「M101」と並び、M83は「南の回転花火銀河」とも呼ばれています。多数の星々が密集して明るく輝くM83の中心部分からは2本の渦巻腕(渦状腕)が伸びています。ESAによると、腕に沿うように連なっている赤い斑模様はガスの分布を示しており、その中に見える明るい斑点は若い星が放射する紫外線によって水素が電離している星形成領域に対応しています。
こちらはこちらは「りょうけん座」(猟犬座)の方向約2700万光年先の渦巻銀河「M51」(Messier 51, NGC 5194)の中心付近の様子です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)と中間赤外線観測装置(MIRI)で取得したデータをもとに作成されました。
M51は近くにある銀河「NGC 5195」(この画像には写っていません)と相互作用しており、「子持ち銀河」とも呼ばれています。ESAによると、暗赤色の部分は銀河内部でフィラメント状(繊維状)に広がる温かい塵(ダスト)の分布を示しています。赤色は塵の表面で形成された複合分子から発せられた赤外線を、黄色やオレンジ色は比較的最近になって形成された星団の星々からの放射によってガスが電離した領域を示しています。明るい結び目や暗い空洞のように見える部分は、恒星の活動が星間物質に対して劇的な影響を及ぼすことで形成されたのだといいます。
関連記事
・ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で捉えた“南の回転花火銀河”の中心付近(2023年11月5日)
・ウェッブ宇宙望遠鏡で捉えた“りょうけん座”の渦巻銀河「M51」の中心付近(2023年9月3日)
こちらは北天の星座「ヘルクレス座」の一角を捉えた画像です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得したデータをもとに作成されました。
画像の1辺の長さは満月の見かけの直径の約13分の1しかありません(2.27×2.23分角)。視野全体で輝く天体のほとんどは、それ自体が何百億、何千億もの星々からなる銀河です。最も大きく見えている銀河は約10億光年先の「LEDA 2046648」で、そのすぐ下には別の銀河「SDSSCGB 45689.6」も写っています。どちらの銀河も明るく輝く中心部分やそれを取り巻く渦巻腕(渦状腕)、新たな星を生み出す星形成領域を持っています。
こちらは「ちょうこくしつ座」の方向約35億光年先にある銀河団「エイベル2744(Abell 2744)」です。ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ(NIRCam)で取得したデータをもとに作成されました。
エイベル2744は複数の銀河団が衝突した結果形成されたと考えられており、画像には3つの大規模な銀河団が集まってさらに大きな集団を形成している様子が捉えられています。銀河団の衝突によってさまざまな現象が引き起こされたとみられることから、エイベル2744はギリシャ神話のパンドラの箱にちなんで「パンドラ銀河団(Pandora's Cluster)」の別名でも呼ばれています。
【▲ CEERS: Flight to Maisie's Galaxy】
(Credit: Visualization: Frank Summers (STScI), Greg Bacon (STScI), Joseph DePasquale (STScI), Leah Hustak (STScI), Joseph Olmsted (STScI), Alyssa Pagan (STScI); Science: Steve Finkelstein (UT Austin), Rebecca Larson (RIT), Micaela Bagley (UT Austin); Music: Spring Morning, Maarten Schellekens CC BY-NC 4.0)
最後はウェッブ宇宙望遠鏡の観測データをもとに作成された動画。視野いっぱいに広がる天体はすべて銀河です。大小様々な銀河の間をすり抜けるように進んでいく視点は、最後に遥か彼方に潜んでいた1つの銀河の手前で止まります。
動画に登場するのは国際研究チーム「CEERSコラボレーション」が観測した約5000個の銀河で、「おおぐま座」と「うしかい座」にまたがる「Extended Groth Strip」と呼ばれる観測領域に分布する約10万個の銀河の一部です。動画は地球から数十億光年の距離にある銀河からスタートし、より遠くの宇宙に存在する銀河へと時代を遡るように毎秒2億光年というスピードで視点が進んでいきます。動画の最後に写されるのはビッグバンから約3億9000万年後、つまり今から約134億年前に形成されたと考えられている銀河です。
関連記事
・10億光年先の渦巻銀河とその背後で輝く無数の銀河 ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影(2023年2月4日)
・近赤外線で見た5万の天体 ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した「パンドラ銀河団」(2023年2月18日)
・134億年前の銀河へ ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データを使った動画が公開(2023年7月22日)
文/sorae編集部