宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月5日、2023年9月に打ち上げられたX線分光撮像衛星「XRISM(クリズム)」のファーストライト(望遠鏡や観測装置の性能を確認するための最初の観測)で得られた観測データを公開しました。【最終更新:2024年1月5日13時台】
こちらはXRISMに搭載されている軟X線撮像装置「Xtend(エクステンド)」で観測された銀河団「Abell(エイベル)2319」です。Abell 2319は「はくちょう座(白鳥座)」の方向約7億7000万光年先にあり、2つの銀河団が衝突していると考えられています。画像は可視光線の観測データにXtendで取得された観測データ(紫色)を重ねたもので、X線を放射する高温プラズマの分布が捉えられています。
アメリカ航空宇宙局(NASA)の「Chandra(チャンドラ)」や日本の「すざく」といった従来のX線宇宙望遠鏡は1回で観測できる視野が限られていて、銀河団全体の様子を知るためには複数回の観測が必要でした。一方、XRISMのXtendは1回の観測で銀河団全体の様子を捉えています。
JAXAによると、銀河団同士の衝突の全貌を探るには銀河団の中央から外側に渡る広範囲の観測が必要となります。銀河団の衝突を理解することは宇宙の大規模構造の進化を理解することにつながることから、Xtendの今後の観測に期待が寄せられています。
こちらはXRISMに搭載されている軟X線分光装置「Resolve(リゾルブ)」で取得された超新星残骸「N132D」のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)を示した図です。N132Dは天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)の1つ「大マゼラン雲」(大マゼラン銀河とも)にあり、地球からは約16万光年離れています。
Resolveのような分光装置で取得される天体のスペクトルには、原子や分子が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線「吸収線」や、反対に特定の波長の電磁波を放つことで生じる明るい線「輝線」が現れます(吸収線と輝線は合わせて「スペクトル線」と呼ばれます)。分光観測を行うことで天体の組成を調べたり、スペクトル線のずれ具合をもとに視線方向の運動速度を割り出したりすることが可能です。
図に示されているのは1800~1万eV(電子ボルト)の帯域に渡るN132Dのスペクトルで、白色はXRISMのResolveで取得されたもの、灰色は「すざく」で取得されたものです。どちらも様々なイオンから放射された輝線を捉えていますが、Resolveは「すざく」では見分けられなかった幾つもの輝線を分離することに成功しています。これらの元素は超新星を起こした恒星内部の核融合反応や超新星爆発で形成されたものとされています。
JAXAによると、Resolveは要求以上のエネルギー分光精度を発揮していることが軌道上で確認できたといい(要求7eVに対して5eV以下)、発表ではこの帯域における輝線感度が世界最高であることは明らかだとされています。高い性能が確認されたResolveの観測を通して、恒星や惑星だけでなく生命のもととなる元素の生成や流転に関する新たな知見が得られると期待されています。
XRISMは2016年に打ち上げられたX線天文衛星「ひとみ」(運用終了)の後継機として、NASAや欧州宇宙機関(ESA)などとも協力して開発された科学衛星です。XRISMのXtendとResolveは星間空間や銀河間空間を吹き渡るプラズマに含まれる元素やプラズマの速度を画期的な精度で測定可能とされており、星や銀河だけでなく銀河の集団が形作る大規模構造の成り立ちに迫ることが期待されています。
JAXAによれば現在XRISMの状態は正常で、2024年2月からは定常運用の段階へ移行する予定です。なお、観測開始までの間にResolveを保護する役割を果たす保護膜が所定の手順では開放できていないものの、より適切な環境条件に変更した上で開放を再実施することが計画されています。保護膜はエネルギーが約2000eV以下のX線を遮蔽しており、開放すれば300eVからの観測が可能になるとのことですが、閉じた状態でも画期的な観測成果が期待できるということです。
【▲ 宇宙航空研究開発機構(JAXA)によるX線分光撮像衛星「XRISM」の紹介ビデオ】
(Credit: JAXA)
Source
JAXA - X線分光撮像衛星(XRISM)のファーストライトと運用状況について文/sorae編集部