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“氷天体の地下海” は有機化合物に乏しい? タイタンでの推定結果

sorae.jp 2024年2月29日 21時0分

太陽系には、分厚い氷の下に地球を超える規模の海が存在すると予想されている天体がいくつもあります。このような環境は生命の存在を予感させますが、果たして液体の水の存在が “保証” されれば生命がいるかもしれないと考えていいのでしょうか?

ウェスタンオンタリオ大学のCatherine Neish氏などの研究チームは、天体表面に豊富な有機化合物を有し、地下に海があるかもしれないと推定されている土星の衛星「タイタン」について、地表から地下へと輸送される有機化合物の量を推定しました。その結果、有機化合物の輸送量はグリシン換算で7500kg/年以下と、生命の維持には到底足りない量であると推定されました。

有機化合物が豊富なタイタンでさえ生命の維持が困難であることを示した今回の研究は、他の天体ではより条件が悪い可能性を示唆しています。

【▲図1: タイタンの内部構造の想像図。氷の地殻の下には分厚い海が広がっているとする予想があります(Credit: NASA)】 ■凍り付いた天体の下には「地下海」がある?

私たちは今のところ、地球でしか生命を発見していません。生命は深海、氷河、火山など、非常に多様な環境で見つかっていますが、どの場所でも液体の水が無ければ生存できないことが分かっています。このため、液体の水の存在は地球以外の天体で生命を探すための必須条件と見なされています。

豊富な液体の水を持つ天体は今のところ地球だけが確認済みですが、太陽系の中に限定しても有力候補がいくつかあります。これらの天体はどれも太陽から遠く離れたところにあり、表面のほとんどが分厚い氷に覆われています。しかし、その下には豊富な液体の水が存在し、「地下海(内部海)」を形成していると考えられています。

表面が氷に覆われていることからも分かるように、こうした天体に届く太陽エネルギーは氷を融かすほど強くありません。しかし、他の天体の重力によって発生する潮汐力や、岩石に含まれる放射性物質の崩壊熱が、地熱として氷を融かすのではないかと考えられています。地下海が存在すると考えられている候補は、どれも地球よりずっと小さな天体ですが、地下海の体積は地球の海の体積の数倍から数十倍もあるのではないかと考えられています。

光が全く差し込まない深海で、地熱エネルギーを頼りに生存する生命は地球でも発見されているため、地下海の海底に広がる生物圏は容易に想像されます。地下海を持つとされる天体は準惑星の冥王星やハウメア、木星の衛星のエウロパやガニメデ、土星の衛星のエンケラドゥスやタイタンなど多数あり、エンケラドゥスやエウロパのように地下海の存在がほぼ確実視されている天体もあります。これらの天体を汚染しないように、運用を終えた惑星探査機を墜落させないようにするような配慮がされるほどです。

■表面に豊富な有機化合物を持つ「タイタン」 【▲図2: タイタンの表面は分厚い大気で覆われ、地表が見えません。この、視界を妨げる黄色っぽいモヤは、高分子の有機化合物で構成されています(Credit: NASA, JPL & Space Science Institute)】

ただし、生命は水だけでは生存できません。生命活動のエネルギー源として、あるいは自らの身体を作るための有機化合物が必要となります。地下海に有機化合物が存在する兆候は既に観測されているものの、生命を維持するほど十分に含まれているのかは分かっておらず、地下海の存在を実証する研究と比べると熱心に検討されているとは言い難い状況です。

この疑問に対してヒントとなるのは、土星最大の衛星の「タイタン」です。タイタンの表面には豊富な有機化合物が存在することが分かっています。そのほとんどはメタンやエタンなどの極めて単純な分子ですが、より大きな分子が存在することも分かっています。タイタンを覆う分厚い大気がモヤっぽく見えるのは、大気中に含まれる高分子の有機化合物によって光が散乱されているためです。

タイタン表面の有機化合物の量は、地球を除くと太陽系随一の規模です。また、表面には液体メタンの湖が多数ありますが、地下深くには地球の海の14倍もの液体の水があると考えられています。表面の豊富な有機化合物が地下海へと供給されれば独自の生命が育まれていても不思議ではありませんが、そのためには地下数kmまで有機化合物が供給されなければなりません。

Neish氏らの研究チームは、タイタンにおける地下海への有機化合物の輸送量を推定しました。タイタンには地球のようなプレートテクトニクスがないと考えられるため、地表の物質を地下海に送り込む手段は限られています。Neish氏らは、物質の輸送に天体衝突を仮定しました。天体が衝突すると、そのエネルギーで表面の氷が融解し、液体の水と有機化合物が混合します。水は氷よりも密度が高く、氷に対して “沈む” ため、地下海へと到達すると考えられます。

■タイタンの地下海は “極めて薄いスープ”

Neish氏らは、最も単純なアミノ酸の1つであるグリシンを基準に、タイタンの環境においてグリシンが生成や分解される速度を推定しました。そして、タイタンへの天体の衝突率の推定値から、地下海に供給されるグリシンの量を推定しました。

驚くべきことに、地下海に供給されるグリシンの量は1年あたり7500kg以下であると推定されました。地球の14倍も大きな海に対してアフリカゾウ1頭分のグリシンを投入しても有機化合物の “極めて薄いスープ” しか生成されないことになり、生命を維持するには到底足りないと言えるでしょう。

タイタンほど有機化合物が豊富な天体でさえ有機化合物の供給が乏しいことを示した今回の結果は、地下海での生命を考える上では悪いニュースです。エウロパやエンケラドゥスのような他の候補天体は、タイタンよりもさらに有機化合物が少ないと考えられるからです。今回の研究が他の天体にも影響するのかどうか、注目される研究です。

 

Source

Catherine Neish, et al. “Organic Input to Titan's Subsurface Ocean Through Impact Cratering”. (Astrobiology) Jeff Renaud. “Saturn’s largest moon most likely non-habitable: Western study”. (Western University)

文/彩恵りり

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