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超新星「SN 1987A」で生じたのは中性子星と確定

sorae.jp 2024年3月1日 21時0分

1987年に観測された超新星「SN 1987A」は、現代の天文学者が間近で観測できた「II型超新星」として、現在でも大きな注目を集めています。一方で、爆発から間もないことから多くの謎も抱えています。その1つが、SN 1987Aによって「中性子星」と「ブラックホール」のどちらが生成されたかです。

ストックホルム大学のC. Fransson氏などの研究チームは、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」によるSN 1987Aの観測データを分析し、中心部の環境が中性子星以外では説明ができないという直接的な観測証拠を提示しました。今回の研究結果はSN 1987A、そして一般的な超新星爆発に対する新たな視点を提供することになるでしょう。

【▲図: ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で撮影されたSN 1987Aの疑似カラー画像。右側は高度にイオン化されたアルゴン原子からの放射を示しています(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI, C. Fransson (Stockholm University), M. Matsuura (Cardiff University), M. J. Barlow (University College London), P. J. Kavanagh (Maynooth University), J. Larsson (KTH Royal Institute of Technology))】 ■超新星の研究での貴重な観測対象「SN 1987A」

1987年2月24日、かじき座の方向で突然星が明るくなる超新星が観測されました。それはすぐに、地球から約16万光年離れた大マゼラン雲の内部で発生した、重い恒星が寿命の最期に発生させる大爆発である「II型超新星」であると確認されました。

1987年に観測された1つ目の超新星であることから「SN 1987A」と名付けられたこの超新星爆発は、最大視等級が2.8等級と肉眼で見える明るさとなり、これは1604年に観測されたケプラーの超新星以来383年ぶりの出来事です。現代の天文学者が宇宙のスケールでは近所とも言える距離で遭遇したII型超新星として、SN 1987Aは非常に注目を集めました。

例えば、SN 1987Aの光が地球に届く2~3時間前に、超新星爆発に伴って発生した素粒子「ニュートリノ」が地球に降り注ぎました。当時日本に設置されていた水チェレンコフ検出器「カミオカンデ」が偶然にもこのニュートリノを捉えることに成功し、謎多き素粒子であるニュートリノの性質の理解が大幅に進みました。カミオカンデはもともと陽子崩壊と呼ばれる全く別の物理現象を捉えるために設置されたものだったため、超新星ニュートリノの検出は全くの偶然であり、嬉しい誤算でした。この出来事は、カミオカンデの建設を主導した小柴昌俊氏が2002年にノーベル物理学賞を授与されるきっかけにもなっています。

SN 1987Aは、発生から37年経った現在でも注目され続けています。距離が近いことに加えて、爆発から間もない超新星の環境を詳細に観測できる数少ない場所だからです。しかし、数十年の観測にも関わらず、未だによくわかっていないこともあります。その1つは、SN 1987Aが何を残したかです。

SN 1987Aは太陽の約20倍の質量を持つ恒星が爆発したことで生じたことが分かっています。現在の理論では、この質量の恒星が爆発後に生成するのは「中性子星」という、天体全体が原子核でできていると例えらえるほど非常に高密度な天体です。

SN 1987Aの研究開始の当初、先述のニュートリノの観測結果から、SN 1987Aの中心部で生じたのは中性子星ではないかとする推定がありました。また2019年頃より、観測結果の分析から、やはり中性子星ではないかという研究が複数提出されています。ただし、これらは間接的な証拠に基づくものであり、中性子星が存在するという確実な証拠ではありません。

■SN 1987Aで生じたのは中性子星だと確定

Fransson氏らの研究チームは、ウェッブ宇宙望遠鏡によるSN 1987Aの観測データを分析し、中心部にある天体の正体に迫りました。SN 1987Aは、ウェッブ宇宙望遠鏡の初回の科学観測で観察対象となった最初の天体の1つであり、観測は2022年7月16日に行われました。

今回の観測では、ウェッブ宇宙望遠鏡の搭載機器の1つである「MIRI(中間赤外線観測装置)」を使用し、SN 1987Aの画像化と、分光観測(※)の精度を両立するモードで観測を行いました。この観測モードでは、中心部にある物質の種類や状態、および位置と移動速度を細かく知ることができます。

※…元素の種類やイオン化のレベルなど、原子はその状態に応じた固有の波長の光を放射します。光の波長ごとの強度を捉えることを分光観測と呼びます。

観測の結果、アルゴン原子と硫黄原子から放出される、特定波長の赤外線の観測に成功しました。特に、アルゴン原子は普段は18個持つ電子を最大で5個失うほど高度にイオン化された原子が豊富に存在することが分かりました。通常の環境ではイオン化しないアルゴン原子が高度にイオン化しているということは、中心部の周辺では極めて高エネルギーな放射活動があることを意味しています。

イオン化された原子の配列や速度を元にシミュレーションを行ったところ、シミュレーションと観測結果が最も一致するのは、中心部に中性子星が存在すると仮定した場合でした。ブラックホールなどその他の仮定によるシミュレーションは観測結果と一致しないことから、SN 1987Aで生じたのは中性子星である可能性が極めて高いと考えられます。SN 1987Aにおいて、中性子星から放出される高エネルギー放射の影響を直接観測で示したのは今回が初めてです。

■一般的な超新星の研究へ生かされる成果

先述の通り、SN 1987Aでは爆発に由来するニュートリノが観測されています。特定の超新星爆発に関連付けられたニュートリノの観測は現時点でSN 1987Aが唯一の事例であり、II型超新星の内部の貴重な情報を持っています。

SN 1987Aで発生したのが中性子星であると今回の研究で絞り込まれたことで、II型超新星に関する研究がさらに進むと予想されます。例えば、観測できたニュートリノの数から実際に発生したニュートリノの数を推定し、II型超新星で起こる核反応を推定することができます。ニュートリノのエネルギーや到達時間から、中性子星の性質を知ることもできるでしょう。また、将来のSN 1987Aに対する研究では仮定する前提条件が絞り込めるようになるため、より集中的な研究ができるようにもなるでしょう。得られた研究成果は、SN 1987Aに限らず一般的な超新星の研究にも生かされるはずです。

 

Source

C. Fransson. “Emission lines due to ionizing radiation from a compact object in the remnant of Supernova 1987A”. (Science) NASA Webb Mission Team. “Webb Finds Evidence for Neutron Star at Heart of Young Supernova Remnant”. (NASA)

文/彩恵りり

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