こちらは南天の「レチクル座」の方向約3500万光年先の棒渦巻銀河「NGC 1559」です。棒渦巻銀河とは中心部分に棒状の構造が存在する渦巻銀河のことで、渦巻銀河全体の約3分の2は中心に棒状構造があるとされています。
欧州宇宙機関(ESA)によれば、天球上のNGC 1559は約16万光年先にある天の川銀河の伴銀河(衛星銀河)のひとつ「大マゼラン雲」(LMC:Large Magellanic Cloud、大マゼラン銀河とも)の近くに見えるものの、実際には大マゼラン雲から遠く離れており、どの銀河団や銀河群にも属していない孤独な銀河なのだといいます。
この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」と「中間赤外線観測装置(MIRI)」で取得したデータをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。
ESAによると、波長がより長い中間赤外線を利用するMIRIのデータ(赤で着色)はガスとともに新たな星の材料となる星間塵の分布を示しています。一方、可視光線に近い近赤外線で観測を行うNIRCamのデータ(青・緑・オレンジで着色)は、塵に隠された若い星を含む星々や、若い星を取り囲む輝線星雲からの光を示しています。
ウェッブ宇宙望遠鏡によるNGC 1559の観測は、近傍宇宙の銀河を対象とした観測プロジェクト「PHANGS」(Physics at High Angular resolution in Nearby GalaxieS)の一環として実施されました。ハッブル宇宙望遠鏡をはじめ、チリの電波望遠鏡群「アルマ望遠鏡(ALMA)」、同じくチリのパラナル天文台にあるヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」も参加するこのプロジェクトでは、銀河における星形成を理解するために様々な波長の電磁波を使った高解像度の観測が数年に渡って行われています。プロジェクトに新たに加わったウェッブ宇宙望遠鏡は星形成のサイクルを物語る泡状やフィラメント(ひも)状の構造を過去最小のスケールで観測しており、同じ銀河を長年研究してきた研究者さえも驚かせているということです。
冒頭の画像は“ウェッブ宇宙望遠鏡の今月の画像”としてESAから2024年2月27日付で公開されています。
Source
ESA/Webb - A galactic treasury文/sorae編集部