宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2024年3月1日、次期太陽観測衛星「SOLAR-C(高感度太陽紫外線分光観測衛星)」のプロジェクトチームを発足したと発表しました。日本が主導するSOLAR-Cプロジェクトには米欧の宇宙機関も参加しており、2028年度の打ち上げを目指して望遠鏡や衛星の開発が進められています。【最終更新:2024年3月6日11時台】
SOLAR-Cは太陽が放射する紫外線の分光観測(電磁波の波長ごとの明るさを示すスペクトルを得るための観測)を通して、太陽表面よりもはるかに高温の太陽コロナが加熱される仕組みや、太陽表面の爆発現象である太陽フレアが発生する仕組みといった謎に迫ることを目的としています。打ち上げには開発中のロケット「イプシロンS」を使用し、高度600キロメートル以上の太陽同期極軌道で2年間の運用が予定されています。
宇宙機としてのSOLAR-Cは箱型の衛星バスに全長約3.8メートルの「極端紫外線分光望遠鏡(EUVST:EUV High-throughput Spectroscopic Telescope)」を搭載します。EUVSTは口径28センチメートルの主鏡で反射した太陽光をスリットで取り込んだ後に回折格子で波長に従って分散し、検出器に送り込むことでスペクトルを取得する高感度・高分解能の観測装置です。開発はJAXA宇宙科学研究所(ISAS)と国立天文台(NAOJ)を主体とした日本のチームがEUVSTの本体構造と主鏡機構を担当し、アメリカ航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)および欧州各国の宇宙機関が分光器を担当する国際協力体制の下で進められています。
SOLAR-Cプロジェクトによると、2006年に打ち上げられて現在も運用されている太陽観測衛星「ひので(SOLAR-B)」など従来の観測装置では迫れなかった課題を解決するべく、SOLAR-Cでは観測する温度帯(彩層からコロナまでの大気層に対応する)のギャップを小さく抑えるとともに、高い空間分解能と時間分解能での観測を行います。
例えばEUVSTの空間分解能は0.4秒角で、「ひので」に搭載されている「極端紫外線撮像分光装置(EIS)」の約2秒角と比べて7倍向上しています(EISの1ピクセルがEUVSTでは約50ピクセルまで分解される)。計測温度範囲はスリットを通過した太陽光のスペクトルを得る分光装置が2万~1500万ケルビン(K)、スリット面上の太陽像を画像として取得するスリットジョー撮像装置が5000~1万ケルビンです。彩層やコロナといった大気構造からフレアまでの幅広い温度帯をこれほど高い空間分解能で同時に分光観測するのは世界初の試みだとされています。
また、SOLAR-Cには太陽全面から放射される紫外線を100ミリ秒という高い時間分解能で観測する「太陽放射照度計(SoSpIM:Solar Spectral Irradiance Monitor)」の搭載も予定されています。SoSpIMはフレアのダイナミックな進化や地球大気の反応との関係を詳細に研究できるようにするための観測の他に、EUVSTによる観測の較正にも用いられるということです。
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SOLAR-Cプロジェクト - SOLAR-Cプロジェクトが発足しました文/sorae編集部