こちらは「ペルセウス座」の方向約3400光年先の惑星状星雲「Messier 76(M76)」の姿。「Little Dumbbell Nebula(小亜鈴状星雲)」と呼ばれることもあります。1888年に発表された天体カタログ「ニュージェネラルカタログ(New General Catalogue)」には、接触した2つの星雲かもしれないと考えられていたことから「NGC 650」「NGC 651」として収録されています。
惑星状星雲とは、超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の8倍以下)が進化する過程で形成されると考えられている天体です。太陽のような恒星が主系列星から赤色巨星に進化すると、外層から周囲へとガスや塵(ダスト)が放出されるようになります。やがてガスを失った星が赤色巨星から白色矮星へと移り変わる段階(中心星)になると、放出されたガスが中心星から放射された紫外線によって電離して光を放ち、惑星状星雲として観測されるようになるとされています。
アメリカの宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、M76の画像中央の明るい帯状の部分は真横から見たリング状の構造です。この構造は中心星から放出されたガスと塵でできていて、伴星との相互作用によって形作られたと考えられています。星雲の中央には中心星が進化した姿である白色矮星は写っているものの、伴星らしき天体は見当たらないため、中心星に飲み込まれてしまった可能性があるようです。
リング構造の左右には、中心星の自転軸に沿って双方向に放出された高温ガスのローブ(突出した部分のこと)が写っています。ローブの赤色は窒素から、青色は酸素から放出された光にそれぞれ対応しています。ガスの速度は地球から月までの距離なら7分強で通過してしまう毎時約200万マイル(毎時約320万キロメートル)で、中心星が赤色巨星だった頃に放出されたより低温でゆっくり動くガスへと流れ込んでいます。
宇宙の長い歴史のなかでは惑星状星雲は一瞬の存在でしかありません。STScIによれば、M76も約1万5000年後には消滅してしまうと予想されています。
この画像は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」の「広視野カメラ3(WFC3)」で取得したデータをもとに作成されたもので、ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げ34周年を記念して公開されました。スペースシャトル「ディスカバリー」に搭載されて1990年4月24日に打ち上げられて以来、毎年この時期にはハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げを記念して特別な天体画像が公開されています。
STScIによると、ハッブル宇宙望遠鏡はこれまでに5万3000以上の天体を対象に160万回の観測を行ってきました。研究に利用できる処理済みのデータは合計184テラバイトに達しており、これらのデータを利用して発表された科学論文は4万4000本に上ります。ハッブル宇宙望遠鏡がもたらした発見の多くは、超大質量ブラックホール、太陽系外惑星の大気、暗黒物質(ダークマター)による重力レンズ効果、太陽系外での多数の惑星形成のように、打ち上げ前には予想されていなかったものが占めているといいます。
可視光線を中心に紫外線や赤外線で観測を行うハッブル宇宙望遠鏡は、赤外線での観測に特化した「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」と補完し合う関係にあります。2つの望遠鏡の観測データを組み合わせることで、星や惑星の誕生、太陽系外惑星の組成、めずらしいタイプの超新星、銀河中心核、遠方宇宙の化学といった分野における画期的な研究につながると期待が寄せられています。
冒頭の画像はハッブル宇宙望遠鏡やウェッブ宇宙望遠鏡を運用するSTScIをはじめ、アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)から2024年4月23日付けで公開されています。
Source
STScI – Hubble Celebrates 34th Anniversary with a Look at the Little Dumbbell Nebula NASA – Hubble Celebrates 34th Anniversary with a Look at the Little Dumbbell Nebula ESA/Hubble – Hubble celebrates 34th anniversary with a look at the Little Dumbbell Nebula文・編集/sorae編集部