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史上最も明るいガンマ線バーストの正体が「普通の超新星爆発」と判明

sorae.jp 2024年4月28日 21時3分

遠方の宇宙からやってくる非常に強力なガンマ線の放射を「ガンマ線バースト」と呼びます。2022年に観測されたガンマ線バースト「GRB 221009A」は、観測史上最も明るいガンマ線バーストとして天文学者の注目を集めました。どうしてこれほど明るいのかについて議論が生じ、なかには既存の物理学では説明できない現象が起きているとする説もありました。

ノースウェスタン大学のPeter K. Blanchard氏などの研究チームは、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡」でGRB 221009Aの残光を観測し、その正体が「特徴がない普通の超新星爆発(II型超新星)」だったことを突き止めました。

発生源が普通の現象だったと判明した一方で、新たな謎も生じています。超新星爆発は鉄よりずっと重い元素を生成すると考えられてきましたが、特徴がない普通の超新星爆発であるはずのGRB 221009Aでは、重い元素が検出されないという予想外な結果が得られました。その理由は謎であり、GRB 221009Aに関する研究はまだまだ続きそうです。

【▲ 図1: GRB 221009Aの想像図。(Credit: Aaron M. Geller, Northwestern, CIERA, IT Research Computing & Data Services)】 ■史上最も明るいガンマ線バースト「GRB 221009A」

2022年10月19日に観測された「GRB 221009A」は、2024年4月時点で観測史上最も明るいガンマ線バーストです。余りにも明るいため、主要なガンマ線望遠鏡の1つである「フェルミガンマ線宇宙望遠鏡」では捉えきれないほどでした。また、GRB 221009Aの発生後、ガンマ線バーストとは無関係の観測装置である、宇宙線・太陽風・雷を捉える検出装置が反応を示しました。これは強力なガンマ線が、各検出装置に誤検出を起こすほどの影響を地球大気に与えたためです。

通常のガンマ線バーストと比べて数十倍も明るかったGRB 221009Aには、史上最も明るいことを示す「BOAT(Brightest Of All Time)」という愛称が付けられています。このような極端に明るいガンマ線バーストが地球で観測できるのは1万年に1回程度とも見積もられたことから、GRB 221009Aはとても貴重な観測対象として天文学者の注目を集めています。

ガンマ線バーストの正確な起源は、宇宙物理学における大きな謎です。有力視されているのは、太陽よりも重い恒星が寿命を迎えた際に発生させる「超新星爆発」に関連しているという説ですが、仮にガンマ線バーストのエネルギーがどの方向から見ても同じ強さである場合には、恒星の質量を全てエネルギーに変換しても足りません。そこで、光を絞って明るくする懐中電灯のように、エネルギーの噴出方向を狭い範囲に絞るような現象が起きているのではないかと考えられています。

また、GRB 221009Aは余りにも明るすぎたことから、暗黒物質の崩壊のように現在の物理学の枠組みを超える現象が起きたとする予測もありました。理論やシミュレーションと比較できるガンマ線バーストはあまり観測されていないため、そのメカニズムはよくわかっていません。GRB 221009Aの観測は、これらの説を検証できる貴重な機会となります。

【▲ 図2: ジェミニ天文台で撮影されたGRB 221009A。(Credit: International Gemini Observatory, NOIRLab, NSF, AURA, B. O’Connor (UMD/GWU) & J. Rastinejad & W Fong(Northwestern))】 ■GRB 221009Aの正体は「普通の超新星爆発」

Blanchard氏などの研究チームは、GRB 221009Aの残光をウェッブ宇宙望遠鏡で詳細に観測し、その正体に迫る研究を行いました。1万年に一度と言われるほど明るかったガンマ線バーストが、2022年7月に本格的な運用を開始したウェッブ宇宙望遠鏡で観測できるタイミングで出現したことは、文字通り幸運な出来事と言えます。

ただし、GRB 221009Aはあまりにも明るすぎたため、発生直後から観測しても意味のあるデータを得ることはできません。暗闇の中での明るすぎるヘッドライトは、車体を隠してしまうのと同じようなものです。そこでBlanchard氏らは、GRB 221009Aの残光が十分に暗くなったタイミングを見計らい、発見から168日後と170日後の2回に分けて観測を行いました。

観測の結果、超新星爆発に関連して見られる酸素、カルシウム、ニッケルなどの元素の存在を示す光(近赤外線の吸収および放射スペクトル)を捉えることに成功し、その光には他の超新星爆発と比較して際立った特徴がないことが分かりました。意外なことに、史上最も明るいガンマ線バーストであるGRB 221009Aの正体は「特徴がない普通の超新星爆発」だったことになります。

この結果から、GRB 221009Aが特別明るかった理由として、「方向」が重要だった可能性があります。先述の通り、ガンマ線バーストはエネルギー放射が狭い範囲に絞り込まれていると推定されています。GRB 221009Aはエネルギーの放射が完璧に地球の方向に向いていたために、極めて明るいガンマ線バーストとして観測された可能性があるのです。ただし、GRB 221009Aが特に明るかったのは、他のガンマ線バーストと比較してさらに狭い範囲にエネルギーの放射が集中していたからだった可能性もあります。

また、今回の観測では、爆発した恒星が属する銀河は重い元素が少ないという特徴があることも分かりました。GRB 221009Aが今から約19億年前の宇宙で発生した爆発だったことと総合すると、GRB 221009Aの元となった恒星は非常に重く、重い元素が少なく、高速で自転している、という特徴があったと推定されます。

この推定が正しいかどうか、さらには宇宙全体ではどれくらいの頻度でこの条件が揃うのかが解明されることで、GRB 221009Aのような極端に明るいガンマ線バーストがどの程度珍しいのか、そしてどのようなメカニズムで発生するのかが明らかになるかもしれません。

■重元素が見つからないという新たな謎も

一方、今回の観測では、超新星爆発で発生するはずの重い元素がGRB 221009Aの残光からはほとんど見つからないことが判明しました。GRB 221009Aは普通の超新星爆発である、という分析結果を考慮すると、これは大きな謎です。

誕生直後の宇宙には事実上水素とヘリウムしか存在せず、これよりも重い元素は何らかの核反応によって生じたことが分かっています。このうち、恒星の中心部で発生する核融合反応では、最も重くても鉄までの元素しか生じないことが分かっています。

さらに重い元素は、一瞬のうちに核反応が進行するような、非常に高エネルギーな現象でのみ生じることが分かっています。その中でも実態がよくわかっているのは、非常に高密度な天体である「中性子星」同士が合体した時です。

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しかし、中性子星が形作られ、お互いが衝突するほど接近するには数十億年もの時間がかかります。実際には、中性子星が合体するのに十分な条件が整っていないであろう初期の宇宙でも重い元素は見つかっているため、重い元素を生成する別のルートがあるはずです。超新星爆発は、そんな別の生成ルートの有力な候補のはずでした。

ところが、普通の超新星爆発であるはずのGRB 221009Aの残光に重い元素が見つからなかったことで、超新星爆発と重い元素を結び付けることに疑問符が付くことになります。この疑問符を除去する仮説には以下のようなものが考えられます。

1. 今回の研究で示された「GRB 221009Aは普通の超新星爆発」という考察は間違いであり、実際には何らかの特異な性質を持っている。
2. 超新星爆発によって生じる重い元素は、長年信じられてきた予測よりもずっと少ない。
3. 観測のセッティングにおかしな部分があり、GRB 221009Aからの重い元素のシグナルを捉えることに失敗している。
4. 観測のセッティングは正しいものの、観測結果の解釈に誤りがあり、重い元素のシグナルを見逃している。

どの説が正しいにせよ、証明するにはさらなる観測が必要です。今回の研究は、GRB 221009Aのように普通の超新星爆発と結び付けられる明るいガンマ線バーストをウェッブ宇宙望遠鏡で観測する動機付けとなるかもしれません。

 

Source

Peter K. Blanchard, et al. “JWST detection of a supernova associated with GRB 221009A without an r-process signature”. (Nature Astronomy) Amanda Morris. “Brightest gamma-ray burst of all time came from the collapse of a massive star”. (Northwestern University)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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